「予備試験」で見せた日弁連の意外な顔

     今回の司法改革の、日弁連の主張・姿勢に耳や目を疑うことは度々ありました。日弁連の推進派の描き方は、この「改革」運動は長年、日弁連が取り組んできた活動あるいは懸案の延長上にあって、日弁連こそがこの「改革」を主導してきたというものですが、よく見てみれば、およそ「改革」、あるいは司法制度改革審議会以前の日弁連ならば、当然、こだわるはずのところをこだわらない姿勢が登場したのです。

     その一つが、新司法試験の「予備試験」に対する日弁連の姿勢でした。新司法試験を法科大学院を経ず、受験できるようにする、いわゆる「バイパス」であるこの試験について、広く確保するべきではないか、との意見が弁護士界内外から出た時、一貫してこれに否定的な立場をとったのが日弁連でした。

     2002年ころ、それを初めて目の当たりにしたとき、正直、信じられない気持ちでした。公平・平等な司法試験をあれほど唱えてきた日弁連が、広い受験機会確保をいう方向になぜ、反対するのか、と。

     理由は実に単純なものです。要するに「点からプロセス」に変わる新法曹養成制度のなかで、本道となる法科大学院を経由しないルートを広く認めては、一発試験の旧試験の形が維持されることになり、さらに法科大学院こそが多様な人材から養成される制度になるのだから、それが利用されればよく、むしろ本道が選択されなくなることが問題なのだ――というものです。

     実は当初から、こうした考え方には疑問が提示されていました。その肝心の法科大学院が多様な人材が支障なく学び、少なくともそれまでの制度並に公平で開かれたものになる保証がどこにもなかったからです。どうみても、これまでの一発試験であるがゆえに、経済的な問題や時間的制約を乗り越えて、一念発起して働きながら法曹を志す道を、法学部出身者以外を含め、法科大学院が確保しているとは思えなかったからです。それだけに、日弁連の姿勢に対しては、会内から、とりわけ苦学経験のある弁護士から当時、強い反対論が出ていました。

     そもそも日弁連は、この「バイパス」ルートを全く想定していなかったといわれています。2000年11月1日の臨時総会決議の提案理由の中で、「法科大学院修了を新司法試験の受験資格とする」ことを打ち出し、司法試験の開放性や公平性については、法科大学院入学者に対する経済的支援や夜間大学院、通信制大学院の開設などの方策を講じることで対応するという考え方を早々に示していました。

     その後、予備試験などが話し合われた2002年の司法制度改革推進本部の法曹養成検討会の議論を経ても、日弁連は法科大学院教育を新法曹養成制度の中核として重視する立場から、予備試験はあくまで「法科大学院制度の補完物」と位置づけました。また、法科大学院修了者と予備試験合格者の「公平な競争」を「別ルートを設けることは、制度設計によっては、法科大学院のあり方を崩壊させる危険を含んでいる」とか、「予備試験は通常の法曹志望者を誘引するようなものであってはならない」などといった意見を出しています。徹底的な法科大学院本道主義が打ち出されたのです。

     2002年に「バイパス」拡大論が出た時には、元司法審委員の中坊公平弁護士が、全国紙に「司法改革の原点を忘れるな」という一文を寄せ、前記したような拡大反対論を掲げて、折角司法審が打ち出した路線を司法制度改革推進本部事務局による「変質」させる動きの一例として描いていました。

     しかし、こうした主張は、一面、法科大学院構想の自信のなさの表れととる人も少なくありませんでした。法科大学院が本当に理念通り充実するならば、「質」において予備試験組を凌駕するはずではないか、法科大学院保護策ではないか、という見方です。

     実は、「改革」ではこれと似たような日弁連のスタンスを、裁判員制度の議論でも見ることになりました。この制度が利用されなくなるということの恐れから、被告人に選択権を認めず、また参加する市民側は志願制ではなく、強制とし、しかも、一律「思想・信条」を理由とする拒否も認めないという立場に立ちました。およそ、日弁連がこだわってきたこの憲法上の自由について、日弁連は他の理由によるものが混在することを理由に、歴とした思想・信条を理由とする拒否者の犠牲もやむなしという立場に立ったのです。なにがなんでもの制度維持の立場です。

     今、法科大学院は、前記したような当初疑問視された通りの結果となっており、「改革」路線が崩れ始めています。それを修正しようとする意見や「改革」への慎重論が弁護士界内から出ると、法科大学院関係者や経済界、大マスコミからは、それこそ「原点を忘れたか」といった、まさに隠れ中坊信者のような意見や、「理念をかなぐり捨てて」といった批判がすぐに出されます。

     ただ、見方を変えれば、そもそもそれまでの弁護士としての「原点を忘れ」「理念をかなぐり捨てて」、この「改革」に突き進んだ日弁連の姿があったように思えるのです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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