「成果」強調の落とし穴

     程度の評価には、落とし穴があります。時間ならば「もう~」なのか、「まだ~」なのか、数量ならば「~も」なのか「~だけ」「~足らず」なのか。表現の仕事をしていると、正反対のとらえ方にもなる、こんな基本的な評価こそ、油断が禁物であることを知らされることは度々あります。

     基本的なことをいえば、事実を俯瞰するような視点がなければ、程度について正しい評価はできないわけですが、問題を難しくさせるのは、同じ高度、あるいは同じ角度から事実をながめても、その評価には時として、人間の別の思惑や意図が絡むことがあるからです。

     かれこれ20年くらい前のことになりますが、自分が書いた記事での評価の仕方で、ある運動体のリーダーから抗議を受けたことがありました。

     「私たちの運動の成果を正当に評価していない」

     あるテーマについて、弁護士会が10年ぶりに行った決議に関する記事でした。彼らはこの決議に、前進的な表現が盛り込まれたことを重視し、それを今後の弁護士会の活動への期待につなげていました。

     しかし、実はこのテーマは、弁護士会が決議しながら、事実上、10年間前進していない、いわば放置されてきたテーマでした。そのことを踏まえれば、新決議の表現は、その反省に立った未来への誓いとしてはいかにも弱いととれました。従って、書いた記事は、その点のニュアンスとして厳しいものになっていたのです。まさに程度の評価に対する認識の違い、というべきものでした。

     当時、弁護士会の関係者に、このやりとりを話して、意見を求めたことがありました。その弁護士は、記事の評価の正当性を認めたうえで、こう言いました。

     「まあ、運動してきた人間として、そうとらえたかったのでしょう」

     抗議を受けているのはこちらなのでなんだか変ですが、こちら側が大目に見てあげたらば、という感じではありました。ちなみに、未来に立って見てみると、やはり記事の評価は正しかったと言えます。再び、この点について、弁護士会の取り組みは止まったからです。

     実は、これは弁護士会自体やその周辺の運動論として、依然からしばしば見かけるものです。「○○を盛り込ませた」といった運動の成果を強調する形。もちろん、これは運動する側からすれば、運動論として成果が運動を牽引するという見方であることは理解できなくありません。

     しかし、成果の甘い見通しによって、実は運動自体が別の目的に取り込まれたり、徐々に本来の軌道から外れることもあります。戦果だけ伝えるのならば、大本営発表と変わらなくなります。さらに、「一歩前進」という評価が、運動継続の意思確認や牽引力につながることは認められても、時に妥協論が成果として積み重ねられれば、運動にかかわっている人間が知らないうちに、当初と違うところにたどりついてしまうことだってあり得ます。「対案路線」の最も注意すべきところかもしれません。

     もちろん、事実を伝える側からすれば、さまざまな立場の運動論に振り回されるわけにもいきません。

     今回の司法改革についていえば、日弁連の旧主流派、「改革」主導層のそれこそ1990年初頭からの主張をみれば、まさにこの成果を強調することを第一とする運動論が語られてきたようでなりません。

     弁護士増員政策に結局、一緒に旗を振ることになっても、陪審制度が姿を消し、裁判員制度になっても、統一・公平な法曹養成が崩れても、法曹一元の影も形もなくなっても、さらに「下からの改革」ではなく、結局、「上からの改革」が結実したようにみえても、それでも時に「一歩前進」を強調し、「一里塚」だと弁護士会員を鼓舞し、いかにこの「改革」を弁護士会が主導し、「下からの改革」にしようと取り組んできたかを強調するのが、彼らの姿勢だったように思えます。

     そこには、彼らの「改革」史観といえる描き方もあります。まだ、その流れのなかに自分たちがいるという認識の方々も、弁護士会には沢山います。

     ただ、それはどうなのでしょうか。まさにこれらすべてが「成果」を強調する運動論がもたらす危険をはらんでいたというべきです。あるいはこの先、国民を巻き込みながら、「改革」がとんでもない所にたどりつくかもしれない、という現実を、まず旗を振ってきた人間たちが直視しなければなりません。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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