旧司法試験チャレンジ組の想い

     以前、自分が書いた記事を読み返していたらば、いまから10年前に、現役の司法試験受験生に取材して書いたものがありました。

     本当に恥ずかしいことですが、記憶がかなりあいまいになっていて、取材の経緯も、彼の顔も思い出せません。そして、自分で書いていたことを見て、改めて当時の状況を再認識する始末です。

     司法審最終意見書が出されて以降、当時、司法試験受験生、正確に言えば受験歴のある法曹志望者は、法科大学院構想に関して、マスコミから流れてくる情報を、それこそ目を皿のようにして、見ていました。それは、現実的にどんなものになるのか。自分の将来と、これまで積み上げてきたものが行き場を失うかもしれない不安のはざまで、まさにこの「改革」に戦々恐々の思いでいたのです。

     取材した彼もその一人で、都内の大手司法試験予備校生でした。当時の若い生徒たちの関心は、法科大学院がいかに開かれた制度になるかでしたが、彼ら受験歴のある人間たちの感情は複雑でした。当時、記事にこんなことを書いていました。

     「彼のように20代から司法試験にチャレンジし、30代となった受験生のほとんどは、この構想に自分たちの場所がないことを感じている。要は開校までと、その後数年間のすべり込み合格しか頭にない」

     そして、こんな記述もありました。

     「司法審のいう夜間大学院や通信制大学院の姿が現実的でないこともあって、既に法科大学院は、少なくとも今より働く社会人に法曹への道を開いているとは全く思っていないのである。まして『予備試験』=バイパスに至っては検討もつかない」

     彼らには、すべてお見通しだったというべきでしょうか。司法審や関係者が描いていた、もしくは描こうとしているものの無理、あるいは嘘ともいうべきものを彼らは既に、この時点で見抜いていたととれます。

     だから、彼のこの時点での本音も、法科大学院構想がまとまらず、少しでも開校が遅れ、現行司法試験が続くことを望む、というものでした。

     この記事には、当時、予備校が法科大学院にシフトを切り替え、「法科大学院予備校」に移行する動きがあることとともに、かなりの数の司法試験断念組を射程に、司法書士試験受験コースにテコ入れを始めている、と書いていました。簡裁代理権付与への期待感なども手伝い、予備校生のなかにも少なからず、乗り換え受験を念頭に置いている人間がいるということでした。

     さらに、法科大学院が官・財界の意向を反映し、組織内法律家を念頭に安定的若年化層の確保を視野に入れていること、一方、この構想を支持する現役法曹たちが、実は公平・平等の理念のうえに、受験機会の恩恵を被っていきたことに目がいったとき、彼のようなチャレンジ組が新制度に対し、理不尽な疎外感を感じることも書いていました。

     10年という月日が流れ、当時、彼の目に映っていた法科大学院構想は、まさにそのままの姿で壁にぶつかっています。彼らに居場所がなかったように、多数回受験者にも、社会人志望者にも、この制度は結局、背を向けて存在していますし、法科大学院本道を守るために予備試験も冷遇された狭き門です。彼が指摘したように、旧司法試験より新法曹養成が「働く社会人に法曹への道を開いている」ものではないことは、いまや誰の目にも明らかです。

     彼は、今、どうしているのでしょうか。旧司法試験でのすべり込み合格に成功して、法曹になっているのでしょうか。実は、これまた恥ずかしながら名前の記録が見当たらず、所在も分からず、確かめようがないのです。彼が今、どういう立場で、この構想の惨状をどのような気持ちで見つめているのか分かりませんが、彼ら行き場を奪われたチャレンジ組たちの姿は、その後の法科大学院の失敗を暗示していたように思えます。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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