新試験組「覆面座談会」の成果

     「覆面座談会」というものには、長短があります。いうまでもないことですが、長所は匿名であるがゆえに、本音が語られるということで、いうなればこれが、この座談会の命です。一方、これも当然ですが、短所は匿名であるがゆえの無責任性、読む側から信ぴょう性が疑われる余地がある、ということです。

     参加する側は、自らの素性が明らかにならないという安心感から、当然、本来は明らかにされない、内部告発的な内容を口にすることもあるわけですが、一方で、極論や憶測を無責任に言ったり、乱暴な内容にもなりがちということもあります。もちろん、覆面にしてまでやって、読者が期待する本音が語られなければ、あるいは引き出せなければ、アウトです。

     だから、企画者としては、「覆面座談会」は、それなりにリスキーなものです。安易にこの企画を組むのは、考えものというべきかもしれません。むしろ、「覆面座談会」はやらざるを得ないからやるものというべきです。つまり、この企画は「覆面」でなければだめだ、面白いものが出てこない、という時にやるもの、逆にいうと「覆面」向きのテーマの時に企画されなければいけない、ということになります。

     要するに、「覆面」でなければ、まず、本音は無理というテーマです。単純に無理度が高ければ、高いほど、「覆面」というスタイルがとられたことと、それによって明らかにされる内容への読者側の了解度も高まるのです。

     法曹界のテーマのなかでは、これまでもしばしば「覆面」向きとされたのは、若手弁護士や修習生を登場させる企画です。以前、私も修習生に現行修習に関して本音を語ってもらう覆面座談会を開いたことがありました。そして、最近、よく「覆面」向きと言われるのが、この法科大学院をはじめ新法曹養成絡みのテーマに関してです。

     「やはり覆面にしないと、なかなか本音は出てこないかな」

     先日も若手に法科大学院での経験をシンポで語らせる企画を終えて、それを見ていた弁護士がぽつりと言っていました。こちらが法科大学院について何か赤裸々に語ってくれるのではないか、という期待をもってみてしまうからかもしれませんが、わりと淡々としていて、想像していた苦悩が語られなかったり、制度批判もなかったり、ということだったりするのです。逆に公の場に呼び出される以上、当然に、そういうことは話さなくて済む経験者しか出てこない傾向ももちろんあります。

     そう思っていたところ、このテーマでの「覆面」が、先日もご紹介した経済誌「ZAITEN」11月号の特集「弁護士『若手の逆襲』」のなかで組まれていました。新司法試験組の弁護士3人が登場するもので、メインタイトルは「新試験組をバカにする『ロートル弁護士』」。

     「ロートル」なんて言葉、今の若手が使うか、と思い、中を見ましたが、やはり誰も使っていませんでした。しかし、この座談会のなかで、最も「覆面」であることゆえに、語られているといえるところは、まさにこのメインタイトルの点ではありました。

     「(新人が弁護士会から駆り出された法律相談で)オッサン弁護士からいきなり、『新(試験)』?『旧(試験)』?ってすごく高圧的に聞かれたことがありますね」
     「でも、弁護士会の法律相談なんかに出て来てる中年弁護士なんて全然稼げていない人なんじゃない(?)」
     「そんな人に限って、新旧にこだわりますよね。ハッキリ言って新試験と旧試験でそんなに力の差があるのかなって思うことがある。旧試験の人って弁護士に向いていないと思う人がたくさんいますよ」
     「旧試験は500人しか合格しなかったから、オレは偉いんだっていう人もいるけど、そもそも当時は受験者も少なかった。結局、試験に合格した後、弁護士になってから、どれだけ勉強を継続するかに懸っているんじゃないですか」

     このあとには、修習先で見た年配弁護士の書面が酷く、法的な構成が適当だったり、主張が常識とかけ離れ、「よく弁護士をやってられるな」と思ったといった感想が出てきたりします。見方によっては、メインタイトルの表現よりも、「ロートル」を馬鹿にしている新試験組のような感じもします。

     つまり、この「覆面」はタイトルのような「ロートル弁護士」たちの新人への冷たい目線と同時に、法科大学院出身の新司法試験組は能力的にはむしろ旧司法試験よりも優れていて、したがって、制度としても法科大学院は問題ないが、受け皿である弁護士界側に問題があるような印象を強く与える内容です。新旧の断絶感だけが残ります。

     こうなってしまうのかな、と正直思いました。なんとなくこの辺に、「覆面」の前記した短所と、編集のマジックを見てしまいます。ただ、このなかで、扱うスペースは少なかったですが、法科大学院の授業内容が試験に役立っていないということは、やはり言われていました。先日の「覆面」を外した座談会でも、法科大学院に行くメリットについて、「おカネと時間のある人はリスクをかけて行った方がいい」という趣旨のことを言っていました。受かることが保証されない法科大学院の内容は、法科大学院出身者がだれはばかることなく言える点ということでしょうか。

     もちろん、前記座談会の若手の発言を編集マジックに引きずられるに読めば、弁護士の仕事についての非常に未熟な、感覚的な意見、謙虚さのない不遜な姿勢にとれますし、それもまた、傾向と見る人もいれば、若気の至りととらえる方もいるように思います。

     それにしても、この企画を読むと、やはり「覆面」の評価には難しいものがあると感じます。結局、悪口のような「こんな人がいた」というものが、メインタイトルにとられ、全体のムードとして扱われる感じもあります。

     さらに、もう一ついえば、既に現在、ネットの世界では、より広く「匿名」で語られる場がある、つまり見方によれば、ブログのコメントやツイッターで常時覆面座談会が行われているということです。その意味では、編集マジックが介在しない分、ネットの方がいいのかもしれないという気もしてします。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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