「豪傑 星亨弁護士」の亡霊

     弁護士としてよりも、政治家として有名な星亨は、その強引な性格から、一般的には、あまりいいイメージで語られていないようです。1874年、彼は大蔵省理事官の立場で、自らの希望を押して英国に留学し、日本初のバリスターの資格を取得しますが、これまた司法省にかけあい、「司法省付属代言人」を作らせ、まんまと就任。官庁関係訴訟の代言人を務め、巨富を積み、後年の政治活動資金を作ったといわれているのですから、政治家以前の彼をとっても、現代法曹から範とする声が聞こえてこないとしても、当然の話ではあります。

     その星について、法曹人物譚を残したことで知られている小林俊三弁護士は、なぜかその著書「私の会った明治の名法曹物語」の中で、「星亨はわが国初期の最優秀な弁護士」と、極めて好意的な評価を加えています。

     実は、星は伝説の多い人物で、小林弁護士の前掲書でも、それが登場してきます。

     ある日、星は人力車に乗って裁判所の門を通過しようとし、門衛に「下りろ」と叱呼されました。しかし星は車夫に「行け」と怒鳴り、玄関までついてしまいます。追いかけてきて「なぜ乗り込んだ」ととがめる門衛に星はこう言ったといいます。

     「引っ返すとまた悪事になるがいいか」

     呆然とする門衛をよそに、星は堂々と中に入ってしまった、というのです。

     このエピソードを読んだ時、すぐに似たような話を思い出しました。維新の志士・高杉晋作が、師・吉田松陰の回葬の際、将軍が通る御成橋だった上野の三枚橋を橋役人が止めるのも聞かず、葬列で渡りきったという話です。当時の豪傑伝説にありがちなパターンなのでしょうか。

     もう、一つ有名な星伝説があります。当時の慣例に従い法廷で裁判長から弁護人として氏名を呼び捨てにされた星が、「氏名を呼び捨てにするならば、本職は決して席につかない」と一喝。この抵抗が他の弁護士にも連鎖し、悪弊がなくなった、というものです。

     これまた、事実かどうかは定かではありませんが、前者の伝説よりは、ややリアリティがあるようにも思えます。

     前掲書で小林弁護士は、一言面白いことを付け加えていました。どうもこれらはかつて「弁護士であれば一度は先輩から耳にする」伝説だったというのです。大疑獄事件の黒幕として、世評の攻撃を受け、1901年、その最期は「逆賊星」として、旧幕臣の子の凶刃に倒れた彼でしたが、その彼を当時社会的地位が低かった弁護士の、まさに「星」として、語られた時代が、その死後、存在したということになります。

     もちろん、これが小林弁護士の好意的な星評につながったとまでは言えません。しかし、少なくとも、「豪傑、星弁護士」に一種の爽快感を持ってしまう、弁護士の劣等感が、かつてこの国に存在したことはうかがいしれるのです。

     さて、最近、ある若手弁護士のブログのなかに、意外にもこの星亨の名前を見つけました。その弁護士はこう書いています。

     「星亨(ほしとおる)という有名な政治家がいましたね。彼はもともと弁護士(当時は代言人といいました)ですが、彼のあだ名は、その強引なやり口から、『おしとおる(押し通る)』だったそうです。これこそ忘れてはいけない弁護士の一つの姿なのだと、僕は思います」

     その真意はその前に書かれていました。

     「役所と言うところはたいていどこでも融通がきかず、腹立たしいことこの上ないものですが、『はいそうですか』と素直に引き下がれるような人間なら、何も好き好んでこの弁護士大増員の時代に弁護士稼業なぞやっていないわけでして、自分が正しいと思っているのなら、何が何でもそれを通そうとする、そういう姿勢を忘れてはいかんと僕は思うのです」

     冒頭書いたように、およそ現代ではこれまで弁護士の口からあまり聞かれてこなかった星を範とする意見です。これを役所に対しても正しいと思うことは信念として主張するという趣旨に善意に読むのであれば問題はないのかもしれません。
     
     しかし、その「強引なやり口」を「忘れてはいけない弁護士の一つの姿」とする彼の言葉が、その強引さに、ある種の爽快感をもってしまう、弁護士の新たな劣等感のはけ口を意味するのであれば、これは死後110年を経て姿を現した、決して歓迎できない星亨の「亡霊」のように思えます。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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