「判検交流」が残した「らしさ」の問題

     かれこれ30年くらい前になりますが、弁護士界の中で、「判検交流」というテーマが問題になったことがありました。

     判検とは、判事と検事。それが交流して何が悪い、何が問題なの、と思われるかもしませんが、この交流とは人事の交流を指しています。

     これは行政・国賠訴訟で裁判官が訟務検事(国の代理人)になったり、逆に訟務検事が同訴訟を担当したりすることが、「司法の信頼を損ねる」と、弁護士界側が問題視したのです。

     こう書いてもまだ、ぴんとこない方もいるかもしれません。要するに、昨日まで裁判官だった人が、訟務検事となって、かつて同僚裁判官の前で国の弁護をしたり、裁判官が訟務検事出身で、担当した裁判の訟務検事とかつて同じ組織で仕事をした間柄って、どうなのよ、って話です。これで本当に公正な裁判といえるのか、ということです。

     1980年代当時の時点では、毎年10人から17人、判事から検事、検事から判事ぼぼ同数が交流していました。

     当時、裁判所、検察庁関係者に、弁護士界側のこの主張をぶつけて取材すると、ます、最初に彼らから決まって返ってくる言葉がありました。

     「仮にそうした交流をしても、偏った判断をする裁判官(検察官)は一人もいない」

     裁判官・検察官の資質論とも信頼論とも言えるものですが、それこそ「交流して何が悪いんだ」ということでした。

     だが、こういう主張に対して、必ず弁護士界の論者たちは、こう切り返しました。

     「司法は国民に対して、公正『らしさ』が必要なのだ」

     実は、裁判所・検察庁関係者は、もう一つのことを付け加えることを忘れませんでした。

     「弁護士の方々も交流されれば、よろしい」

     今にしてみれば、これは有効な反論だったというべきかもしれません。弁護士会・界がかねてから強く主張していた理念に「法曹一元」というものがあります。詳しくはまた回を改めますが、もともとは弁護士経験者から裁判官・検察官を選ぶことを意味するのですが、法曹資格から三者が選ばれる、つまり元は一つという意味に、この国では使われています。

     この理念からすれば、二者の交流を問題にするのではなく、弁護士の任官を推進して、三者が交流することで問題が解消されていくのではないか、という考え方に、基本的に弁護士会・界が異を唱える話ではなかったということです。

     事実、90年代に入り、弁護士任官推進というテーマに入れ代わることで、「判検交流」問題は、急速にその姿を消していきました。ただ、その後、弁護士の任官が活発に行われたかというと、そうではありません。2009年まで毎年10人以下と低迷しています。日弁連では、今は新人の任官希望者の育成や弁護士復帰後のフォローをしてくれる弁護士任官支援事務所を募集していますが、全国に8事務所だけです。一方、判検交流は今ももちろんあって、年間それぞれ40人くらい交流しているようです。

     ところで、「らしさ」の話はどうなっちゃったのでしょう。弁護士会・界のなかで、とんと聞こえてこなくなりました。この間、日本司法支援センターの設立をめぐり、弁護士会内の一部から、所管や人事面で、法務省との癒着や刑事弁護への影響がいわれ、懸念論vs「介入はあり得ない」という推進論・「あってはならない」という積極参加による問題解決論という、どこか「判検交流」論議に似ている対立構図はありました。ただ、最大の違いは、対立軸が主に在朝在野ではなく、弁護士会の中にあったことですが。

     「判検交流」がいわれた当時、強かったような「反権力」的スタンスは、もう古いと言う人がいます。弁護士が権力構造にどんどん入っていって、中から変える時代なのだ、という人もいます。

     しかし、「らしさ」の主張は、実は国民目線の主張だったのではないか、とも思えます。単に外形的なことにとどまらず、具体的な影響が推測できる状況と、正当性を証明しきれない抗弁を前にしたとき、弁護士が「らしさ」にこだわる姿勢は、国民への信頼の証を求めるものでした。

     もちろん、「反権力」が古いといっても、「権力」が大きく変わったわけでもありません。「オールジャパン」で取り組むとされた司法改革の流れのなかで、弁護士・会の立ち位置もまた、変わってきてしまったという人は、この世界にも沢山います。

     もし、今の弁護士・会が、かつてのように「らしさ」というテーマにこだわれなくなっているのだとすれば、それはそれで市民にとっては重要な問題のように思えます。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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