大手事務所事情から見た弁護士大増員

     「弁護士『若手の逆襲』」というタイトルで、経済誌「ZAITEN」(財界展望社)の11月号が、弁護士の増員と法科大学院関連で特集を組んでいます。このなかの同誌法曹問題取材班の記事で、「大量増員時代とともに拡大した大手事務所」という一項があります。

     2000年11月に日弁連が臨時総会で激論の末、「司法試験合格年3000人」を弁護士自らが受け入れた背景に、当時はまだバブル後の後始末として弁護士の活躍の場か残されていたことがあり、その恩恵に最も浴したのが大手法律事務所だったと書かれています。

     1998年から本格した金融危機で、大手事務所は業務領域を大幅に拡大。銀行の不良債権の買い手として上陸した外資系金融機関が入り、海外のファンドが資金を拠出して不良債権を買うという形のなか、資産査定や法的助言、さらに証券化業務が発生、「ワンストップサービス」と「国内最大」といった事務所規模をうたうメリットから統合競争が進み、新人の需要が拡大した――と。

     この状況が大手事務所の弁護士が、「3000人」を容認した「心理的な背景」だとしています。金融危機一段落後は、国内一般事業会社のバランスシートのスリム化、その後不動産市況が回復、大企業のリストラが済んだ頃から景気回復軌道に乗って大型のM&Aも増加。2000年以降、大事務所が採用する新規弁護士登録者の割合が4~5%から9%に伸びたことも挙げています。

     いわば、弁護士業の中で、彼ら大手事務所、渉外・企業系弁護士が「花形」というイメージを完全に定着させた時代の話です。

     ある意味で、こうした種類の弁護士以外の方々には、正直、よそよそしい感じを与えるエビソートかもしれません。経済誌らしい切り口かもしれませんが、「心理的な背景」という表現ながら、こうした大事務所の経済的成功と見通しが、この国の司法試験合格者を激増させる明確な根拠にはなり得ないことくらい、当時の弁護士にも分かりそうなもののようにもとれるからです。

     それとも当時の彼らの目には、久保井一匡・日弁連会長(当時)が司法審席上で断言したように、本当に年3000人は「十分に日本社会で吸収し得る」と映っていたのでしょうか(「日弁連が『3000人』を受け入れた場面」)。

     その後、大手事務所の状況は、2009年秋のリーマンショックで一変。ファイナンス、大型国内M&A案件が激減。海外企業の国内企業買収が激減するとともに、国内法での彼らのアドバイス業務も減ります。

     それとともに新人の扱いも変わったと同誌は報じます。入所直後から選別しての不要な人材の振るい落とし。不要な人材は、終えても帰る場所の保障がない片道切符の海外留学へ。しかも、自分が下についたパートナーの取り扱い分野の業務の下請けしかできない彼らは中、小の事務所の若手のような幅広い業務の経験はできず、中途半端な年次で追い出されても転職先がなく、独立となれば一から街弁の業務の独学が待っている――と。

     すべてがこういうパターンになるとも思えませんが、最悪の事態としては考えられることです。それゆえに、聞こえてくる話としては、同誌も同趣旨のことに触れていますが、やはり一部のその手のエリート意識と上昇志向を持った弁護士以外は、逆に大手を敬遠するという見方があることも事実です。

     こうした実態のなかでも、渉外・企業系のベテラン弁護士らからは、「国際競争」「グローバルな弁護士がいない」といった観点を強調し、依然としてまだまだ増やすべき、3000人になれば有能な人材がくる、と言う方が聞こえてきます。また、弱者救済のための「静脈系」弁護士に比べて、企業が海外に打って出ることをサポートする「動脈系」弁護士が日本では決定的に不足している、と言う方もいます。

     リーマンショック以降の状況を見れば、法曹志望者すべてに彼らのメッセージが魅力的なものとして届くかどうかは分かりませんが、少なくとも「市民のため」に照らして法曹人口の適正規模を議論するのとは、別次元の経済的な現状認識とそれに対応する弁護士戦力の活用が、常に彼らの発想の根底にあることは踏まえなければなりません。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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