法科大学院「不要論」の脅威と本道主義

     法科大学院をめぐる法曹界の空気が、徐々に変化してきています。

     ちょっと前までは、「改革」支持に消極的な人に、法科大学院修了者の司法試験合格率が低迷していることなどについて水を向けても、本音はともかく、「それでも、昔に戻せという話にはならない」といった回答が返ってきました。

     それがいまやそうでもない感じです。「いっそ戻した方がいいのではないか」という声を聞きます。要するに不要ということです。法科大学院制度がスタートした当初から、法曹界には、そもそも旧司法試験をやめて、どうしても法科大学院にしなければいけない、ということに首をかしげる人が少なからずいたことは事実です。

     それでもそういう人の多くが、消極的支持に回ったのには、法曹人口増員の既定方針があったと思います。その流れがある以上、法科大学院制度の受け入れもやむなしと考える人もいたのです。しかし、いまやその前提も危ういものになっています。

     合格者年間3000人目標の旗を降ろし、さらに現状の2000人より減らし、1000人にという声が弁護士の中には強くなってきています。もちろん、合格者増路線が崩れ、逆に減員となれば、現在の法科大学院制度は大幅に見直しを余儀なくされます。増員路線のぐらつきは、法科大学院をぐらつかせるのです。

     そもそも現在の法科大学院は「不要論」に耐え得る現状ではありません。

     「法科大学院はもはや不要」

     9月30日付け朝日新聞オピニオン面「声」欄に、こうした見出しの鈴木英夫弁護士の投稿が掲載されました。ここで、鈴木弁護士がはっきりと指摘しているのは、法科大学院の登場によって、法曹養成は悪化したということです。

     法科大学院修了を受験資格要件としたため、法曹を目指す者は最低2年間高い学費を払わなければならず、返って法曹への門は狭くなった。司法試験の弊害として詰め込み主義が指摘されたが、プロセス重視と言いながら成績評価に信用性がなく、司法試験の合否と大学院の成績は無関係。修習生が二回試験で不合格になる割合が高く、質の向上には役だっていない。少人数の対話形式の授業や試験科目以外の法律の学習等も従来の大学院、学部レベルで実現できる。こんな法科大学院に補助金として税金がつぎ込まれている――。

     この投稿をよく「朝日」が載せたなという気持ちにはなります。もちろん、「声」欄には比較的いろいろな意見を載せている体ですから、これをもって推進派「朝日」に異変とまではいえませんが、それにしても少なくともとるに足らない意見として片付けなかったと考えれば、法曹界内の「不要論」の声とムードを無視できない動きとはとった可能性はあります。

     それはともかく、この「不要論」への脅威といったものを、この制度の推進派は、ずっともっていたのではないか、という気もします。予備試験の扱いの議論でもいわれていますが、そもそも受験資格要件化も、そうでもしなければ法科大学院が「利用されない」という前提に立っています。本来、法科大学院が内容においても「質」においても優れているというのであれば、なおさら無理な本道主義に立つ必要があったのでしょうか。

     結果として、「質」をより確保できるのであれば、別に法科大学院でなくてもいいはずです。しかも、新司法試験という点を残しているのならば、なおさらで、「司法試験の合否と大学院の成績は無関係」という結論が出た時点で、その意味は決定的なものになります。こういう評価が出た暁には、即法科大学院の存在意義が問われることを恐れていなかったとは思えません。逆に、こういうことが問われない形で、「7、8割合格」といううたい文句通り、どんどん受かる形を考えていたとも考えられます。

     そもそも新たに立ちあがった、実績ゼロの制度を、受験要件化で強制化するという形がなぜとられたのか、そもそも現役で活躍している法曹がすべて問題であるわけがない以上、旧制度の極端な全否定からスタートする必要があったのでしょうか。志望者の希望に合わせて、いくつかのルートを確保して、制度のよしあしを勝負する選択肢は、法科大学院を推進する側にははじめからないのです。

     現在の法科大学院制度は、「点からプロセス」という議論のなかで、現実的な意味や実現可能性を度外視して、プロセスを重視する形がとられた結果のように思えます。それが何のためであったのか、そこが問われる必要があります。


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    >この投稿をよく「朝日」が載せたな

    ロースクール擁護は読売のほうが強いですね。あと最近の朝日は
    以前よりも保守的になってるように感じます。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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