「法律相談」というニーズ

     大衆が、法的な問題を抱えた場合、一般的にはまず法律相談からという話にはなります。日本司法支援センター(法テラス)、弁護士会、自治体の無料法律相談にしても、インターネットの普及で、いつ、どこにいけばいいのかまでは、とりあえずすぐに分かるようになったのは、法律家に知り合いがいない大衆にとっては大きいことだと思います。受け皿自体も、大きくなってきているというべきでしょう。

     ただ、こうした無料法律相談の評判が、以前より格段によくなった、という話は残念ながら聞こえてきません。弁護士会の相談で、有益なアドバイスを頂いて、安心や納得されて帰られる方も、もちろんいるそうです。いるそうですなどと、歯切れの悪い言い方をあえてしてしまうのは、まあ、私のところに相談を持ち込んでくるのは、相談に納得してないか、期待外れの方がほとんどですから。

     これは必ずしも法律相談を行っている弁護士が悪いわけではないと思います。確かにいろいろな弁護士はいますが、多くの場合、要するに相談時間が短くて、相談する側も十分話せず、相談される側もその範囲で、とりあえず言えるアドバイスをしている結果だからです。

     相談時間は例外もあるようですが、だいたい一人30分。自分が接した市民の傾向からして、とにかく相談者は自分の事情を一からえんえんと語り出します。私が聞いていても、とても30分では当事者の言い分なんて聞ききれません。ここにも、相談者側の不完全燃焼があるかもしれません。

     弁護士側としては、正確な事実の把握が大事ですが、とりあえずの指南をするにしても、法律的に整理するための核になる部分をつかまなければなりません。まずは、無料相談に行く市民は、これまでの事情や思いのたけを全部ぶつけるつもりで、ぶっつけ本番でいくのではなく、ここは冷静になって事実の概要と何を請求したいか、何を弁護士に聞いておきたいかを事前にまとめて、書いていかれることをお勧めします。

     また、相談者は、いざという時、ここで受任してくれる弁護士と必ず出会えると考えている方もいますが、自治体などでは、そのまま面談をした弁護士が直接できないこともあり、弁護士会でも必ずその弁護士が受任するとは限りません。ここも、どうも期待外れのポイントのようです。

     ところでこの法律相談、近年、弁護士には人気だそうです。市民のために、ボランティア精神を持った弁護士が増えた、というわけではありません。経済的に厳しくなると、法律相談の日当、さらには、そこから先の「ビジネスチャンス」に注目する弁護士が多くなっているということなのです。

     数年前、ある弁護士会の中で、弁護士会の法律相談は、会員である弁護士のボランティアか、それとも会員の権利か、という議論までなされたことがありました。相談担当を外された会員が、抗議したことに端を発したもので、担当を外すことは「ビジネスチャンス」を与えられる権利を奪うものではないか、という話になったのです。

     最終的な結論はでなかったようですが、会員の弁護士の中には、法律相談を弁護士会の業務対策の一環と考え、積極的な広報で、多数の相談者を誘因し、多くの会員のビジネスチャンスにつなげることも必要と考えると、担当会員の相談も権利性を帯びる、といった考えもあったようです。

     言っている意味は分かっても、法律相談が弁護士のビジネスチャンスということは、およそ市民の念頭にはありません。ボランティアでもないかもしれません。弁護士会の法律相談は、弁護士が社会的責任で臨むべき本来業務で、弁護士がボランティアといえるのは、本来業務以外の奉仕活動を行った場合――こう考えてもおかしくないようには思います。

     以前にも書きましたが、弁護士からすれば、中身にもよるでしょうが、基本的には相談自体、法的指南として本来、有料課金対象のお仕事です。しかし、多くの市民の感覚では、相談は本来的にはビジネス同様、正式契約前の無料の領域にあってもいいじゃないか、という受け止め方もあります。

     このズレは結構、重要なことだと思います。できれば無料でお願いしたい、無料ならば弁護士に相談したいという、おそらく大量のニーズと、弁護士におカネを払ってでもお願いしたい、おカネなら出す用意もある、というニーズが、結果的に選別されない議論が弁護士会内で行われ、十把一からげに「ニーズは沢山ある」という話になっている観があるかです。

     もし、大量の無償のニーズの受け皿になる大量の弁護士が必要であるとすれば、それは単純に弁護士を増産すれば足りるという話でないことは明らかです。医療の保険制度のように、弁護士を支えるものは何もないのですから。

     法律相談の先に、ビジネスチャンスをみている弁護士の姿は、やはり法律相談全体を自分たちを支える有償のニーズとしてカウントしたい姿のようにも見えてくるのですが。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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