増員推進派が描いた「弁護士像」

     いまから30年くらい前に、弁護士人口の増員の必要性を唱えていた弁護士に、初めて取材したとき、こう言われたのを覚えています。

     「日本の弁護士は、裁判所門前町スタイルなんだよ」

     つまり、有力神社や寺院の前に、社寺関係者とか参拝客を相手にする商工業者が集まることで形成された門前町のように、弁護士は裁判所のそばに事務所を構え、裁判所にかかわることになる市民の仕事をしてきたのだ、という意味です。つまり、これは弁護士の裁判所を中心とした業務、訴訟中心の業務をいうものです。

     増員派のこの弁護士は、それを改めるべきなのだと、いうわけです。訴訟以外の弁護士がやるべき仕事は沢山あるのであって、弁護士のあり方として、このスタイルは時代遅れで問題なのだと。そして、そうした仕事の広がりを求めるには、数が必要なのだ、という話でした。

     その後、この言い方は時々、前記のような趣旨で、他の弁護士からも聞くことがあり、弁護士の間で比較的使われる例えであることを知りました。

     実は、今回の司法改革論議のなかで、日弁連会長自らが、この例えを使って、弁護士人口の増大の必要性を強調した場面がありました。2000年8月29日、司法制度改革審議会の第60回会合での、久保井一匡・日弁連会長(当時)の発言です。

     この日、久保井会長は、司法審がこの前年12月に公表した「論点整理」で示した司法改革の三つの観点、「日本社会において法を血肉化させる」「国民一人ひとりが統治客体意識から脱却し、統治主体意識をもって社会に参画していく」「法曹が社会生活上の医師としての役割を果たしていく」に「深い感銘を覚えた」と賛辞を述べたうえで、弁護士改革の決意表明を行います。

     彼は、その一番目に「弁護士の人的基盤の強化、すなわち、弁護士人口の増大」を挙げ、そのなかでこう述べました。

     「これまで、弁護士の活動はややもすれば裁判所中心の業務、いわば裁判所城下町、裁判所門前町のような形で活動が狭い範囲にとどまっていましたが、これを一日も早く克服し、いつでも、どこでも、どんな問題でも国民の法的ニーズに応えられる、いわば全天候型・全方位型の弁護士像を目指していきます。そのために、今後、これに必要な弁護士の数を確保するため、弁護士人口を増大させていく必要があると考えます。これによって、あわせて日弁連がかねてから主張してきた法曹一元制度を一日も早く実現したいと考えています」

     日弁連執行部が、既にこの時点で、司法審の「改革」思想に、完全に傾倒し、また弁護士人口の増大に法曹一元制度実現への期待観をかぶせていることが分かります。ただ、それもさることながら、ここで興味深いのは、例の「裁判所城下町」「裁判所門前町」スタイルの弁護士業を「一日も早く克服する」先に久保井日弁連会長が、描いた図です。

     「いつでも、どこでも、どんな問題でも国民の法的ニーズに応えられる」というのは、ある意味、すごい表現です。ここまでの万能主義の描き方は、あまりに大括りすぎて、逆にイメージができません。「いわば全天候型・全方位型の弁護士像」という例えも例えになっているとは思えません。方位に例えるのはまだしも、天候にたとえるのはいい例えなのか分かりません。国民生活にとっての晴れの日も、雨の日も、弁護士が乗り出すというイメージでしょうか。

     おそらく、そういう細かな解釈はどうでもよかったのです。ここで示されたのは勢いであり、強調です。このくらいの覚悟で、日弁連は弁護士改革に望み、弁護士人口を増大させるのだ、という意気込みを伝えたかったのだろうと思います。

     いまや、弁護士界で、「裁判所門前町」という例えは耳にすることがなくなりました。この10年で、弁護士業は確かにそういうイメージではなくなってきたからのように思えます。

     しかし、半面、その反対概念のように、目標として久保井会長が掲げた「全天候型・全方位型」を言う人もいません。それが意味した「いつでも、どこでも、どんな問題でも国民の法的ニーズに応えられる」といったとらえ方自体に、冷めた見方をする弁護士も増えてきている印象を持ちます。

     その最大の原因は、弁護士の激増政策によっても、それがもたらされないこと、逆に激増政策のためにそうした見方が掲げられること、そもそもそうした「弁護士像」にたどりつく前に破たんする危険性があることを、多くの弁護士が知ってしまっているからです。そして、さらに決定的なことは、「全天候型・全方位型」で社会生活に乗り出してくる「弁護士像」を多くの国民が求めているという話はどこにもないからです。

     あの時の日弁連会長の決意は、一体、どういう声に向き合い、どちらに向けられていたものなのか。そんなことをいまさらのように考えてしまいます。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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