「ニーズをつくれ」という目的と危うさ 

     法曹人口の大幅増員の方向が決まったことで、法科大学院制度を法曹界が受け入れざるを得なくなり、その結果として、多くの法科大学院が立ち上がりました。ところが、司法試験合格者は増えたけれど、市場がそれを受け入れられず、就職支援が必要となっています。それでも、この形を維持しようとされる方々は、あくまで法曹を社会に放出せよ、市場に任せよ、と言います。

     そして、市場が受け入れないのは、弁護士の努力不足だ、といったことも言われます。「質」を懸念する声に対しては、弁護士が努力したくないからだ、「競争」を回避して楽して儲けたいだけなのだ、という話にもなります。

     この話をすると、この世界のことを知らない市民の中には、首をかしげる人がいます。増やした弁護士をなんとか吸収するために、新たなニーズを作る話になっているとは思っていなかったからです。もちろん、そんな「競争」が開始されることも聞かされてはいないのです。理由は簡単で、大マスコミの、弁護士が増えれば使い勝手がよくなる、社会の役に立つというメリットを強調する報道を通して、前記推進派論調に寄り添った、大マスコミが後押しする「改革」の形ばかりを目にしてきたからです。

     この過剰な弁護士を受け入れるため、「実需」以上のニーズを作るということに対して、「言語道断」と書いている方がいらっしゃいます。

     「これは民間企業が、これまでにない製品を開発し、消費者の潜在需要や新市場を開発していくのとは訳が違う。『実需』とは、市場や消費者が、商品やサービスの有用性を評価し、それを自然に受け入れるからこそ発生するのであり、国が制度や仕組みをもって強制するとから生じるのでは断じてない」(河井克行・衆院議院「司法の崩壊」)

     法曹人口激増と法科大学院の経済合理性の問題として、こんな風に書いている弁護士の方もいました。

     「例えばトヨタの社長が『国民はもっと自動車を買うべきである』『トヨタ車はあまねく日本の津々浦々を走るべきである』と確信し、そのために自動車生産数を3倍に、工場も3倍に増やしたとする。しかし常識で考えて売れるわけがないし、売れなければ工場は当然閉鎖される。それどころかトヨタ本体は倒産の危機に瀕するだろう」
    「弁護士の数だって同じことだ。弁護士も経済社会の中で存立を許されているのであって霞を食べて暮らしているわけではない。経済合理性を有しない法科大学院は次々に統廃合を余儀なくされるだろう。無謀な大増員によって今後は限られたパイの奪い合いを強いられることになる弁護士界はさながら構造不況業種であり、有意な学生は離れていくことだろう」(「仙台 坂野智憲の弁護士日誌」)

     ここで指摘されていることをみれば、ニーズを作れという法曹人口の増員と法科大学院を維持していこうとする人の言い分が、経済合理性とその結果をいかに考慮しないものかが分かります。その実害から目をそらす姿勢は、いかに利用者国民が眼中にないかのあらわれともいえます。そもそもこうした法曹人口激増、まして、こうした結果をもたらす危険性がありながら激増させることなど、国民は了解もしていなければ、望んでもいないのですから。

     それでも、この政策を推進したい方、法科大学院を守りたい方は、「実需はある」とし、はたまた「弁護士も他の商品と同じ」として、冒頭の主張を言い続けるのかもしれません。

     しかし、大マスコミも含めて「国民のため」を装って、唱え続けられるこの主張が、国民の了解しない、望んでない事態を引き起こし、または、引き起こす危険に国民をさらし続けていることに、社会は気づかなければなりません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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