「若い芽を摘まぬ工夫」の中身

     「法律家の育成 若い芽を摘まぬ工夫を」
     
     毎日新聞が9月20日付けで、こうしたタイトルの「社説」を掲載しています。「法曹の道を目指す意欲をそぐ状況が生まれている」という書き出しのこの一文では、今、新法曹養成、法曹人口をめぐり、起こっている問題を、一応、一般読者に分かりやすく伝えてはいます。

     今年の新司法試験の合格率は23.5%で、過去6回で最低。年間合格者3000人程度未達成。未修者(3年)コースの合格率は約16%で、既修者(2年)コースの半分以下で「多様な分野からの人材」確保の理念からほど遠い。3分の1以上の大学院が1桁台の合格率。修了者「7、8割」の目標とも遠い。そして、司法修習を終えても就職難が待ち構え、日弁連によれば、今秋就職予定の司法修習生の約4割が7月時点で進路が未定で、いきなり独立・開業する「即独」も増えている――。

     すべて現実のことです。他の報道を通して、国民に伝えられていることとはいえ、分かりやすく繰り返し伝えられる意味はないとはいえません。ただ、この記事の評価を難しくするのは、冒頭に書いたこの記事のタイトルとの関係です。

     「多様な人材」については、「社会人向け夜間コースの拡充など、職業経験を経て法曹を目指す人たちを支える体制を、法科大学院全体として充実させてほしい」。「3分の1以上の大学院が1桁台の合格率」には、「教員のレベルを含め、教育の質に問題がある」「一定の淘汰はやむを得ない」「詰め込み的との批判がある試験内容の見直し」。弁護士になってからについては、必要事件や裁判の処理をめぐり、弁護士倫理が問われる場面は多いとして、「研修を含め、若い芽を弁護士会全体で支える体制作りが急務」。そして、「国民の多様なニーズに応える質量ともに充実した司法の実現は、いまだ途上」「高齢化など時代の変化に対応して職域を拡大する道縮み志向で小さなパイを前提とするのでなく前向きな議論」。

     これが、若い芽を摘まない「工夫」として、毎日新聞が掲げた中身です。しかし、中身は中身でも、これは、ある種、事情をご存知な方からみたならば、スカスカの中身です。具体的な方策として、現実化する形が出てこない、出てこないがゆえに、理念が空回りする話だからです。理念に縛られている限り、小手先の「改革」か、あるいはそれすらも出せるのか危い話なのです。

     「法曹の道を目指す意欲をそぐ状況」という前提ながら、経済的な事情について、この記事は触れません。志望者の負担ということでいえば、「給費制」廃止が触れられていないこともさることながら、そもそもおカネのかかる法科大学院というプロセスにも言及していません。

     就職難をいうのであれば、弁護士が激増される政策、合格3000人目標の是非についても触れて当然ですが、それもなく、「国民の多様なニーズに応える質量ともに充実した司法の実現」といった、もはや「念仏」のような言葉を書いているだけです。

     要するに、理念に差し障る「工夫」はなく、理念を見直す「工夫」もあらかじめ除外しているともとれるのです。

     慎重論を「反改革」といわんばかりになじり、日弁連・弁護士会を抵抗勢力のように描いたり、嫌みな表現も厭わない朝日新聞の論調よりも「毒」がない感じもしますが、「工夫」となると、途端にぼやけるのは同新聞と同じです。ある意味、ソフトタッチな分だけ、「毎日」の論調も、やんわりこうした方向を読者に刷り込む感じもなきにしもです。

     「理念」自体が「若い芽を摘まない」ことを想定していたのか、それを危険にさらすだけの大義と目的が、そもそも存在していたのか、そこについて、国民に、依然として、目隠しをつけようとしているような印象を持ってしまいます。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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