言い分を聞いてクギを刺す会議

     後年、「法曹の養成に関するフォーラム」の議論を、日弁連・弁護士会側が振り返るとすれば、そこで、どのような形で意が汲まれたかではなく、どのように意は汲まれなかったのかが確認されることになるのではないか――これが、公開された議事録から見えてくる、少なくとも、第5回までのこの会議の率直な印象です。

     これまでのメインテーマだった「給費制」問題について、維持を求める日弁連・弁護士会側の主張は、ほとんど他の委員から相手にされず、この会議の方向は、その主張をそのまま踏み越えて、「貸与制」に進みました。

     それは有り体にいえば、日弁連・弁護士側の言い分を聞き、それが通用しないということを他の委員が伝えたという場のように見えます。しかも、これはこの会議の想定内で、予定通りのスケジュールが進んでいるようにとれます。まず、彼らは、日弁連・弁護士側がどんな言い分を掲げてくるのかなどは、初めから分かっている方々で、もともとクギを刺すつもりで会議に臨んでいるのではないか、さらにいえばクギを刺すのが会議の目的ではないかとすら、思えてくるのです。

     「給費制」問題で、当初の予定通り、第1次取りまとめという形で、一応の区切りがつけられた8月30日の第5回会議でも、日弁連・弁護士側は、とどめのようにクギを刺されています。

     貸与制での指定金融機関が保証を拒絶するケースを懸念し、修習に専念する生活を送れるような仕組み,運用を求める弁護士委員、この点が、給費制に代わって貸与制を導入するかどうかという制度の問題自体にかかわるとする日弁連オブザーバーに対し、委員の井上正仁・東京大学大学院法学政治学研究科教授が言います。

     「制度上も必ず保証が受けられるということでなく、理論的には保証が受けられない可能性が残るならば、貸与制への切替えはすべきではない。そういう人が実際にどれくらいいるのかは分からないけれども、あり得るとすると、そういう人に十分な生活保障をするために修習生全員に対する給費制をあくまで維持するべきだと、こういう主張なのか。そうではなく、賛成とまではおっしゃれないのだけれども、貸与制への切替えということが多くの意見ならば、それを前提としながら、しかし、貸与制の下そういう保証が得られないため貸与を受けられない人が出ないような措置を考えるべきだと、こういう主張なのか」

     弁護士委員と日弁連オブザーバーの言葉の間に入って、すかさず突っ込みをいれていますが、要するに、この点の問題を挙げて、またぞろ「給費制」維持の議論をぶり返そうとしているのではないだろうな、という調子です。

     これに対して、弁護士委員はあくまで貸与が受けられなくなるような事態をカバーできる措置を求めましたが、日弁連オブザーバーの発言要求は、この会議の座長によって封殺されました。

     この後、委員から弁護士の関心の低さの表れのようにまで言われた回収率13.4%のフォーラム実施の弁護士収入調査に対し、日弁連が緊急に補充調査を実施し、回収率は44%になり、この結果から、いわゆる過払いバブルがあった事実などの留意点を記載して残してほしいとの要求に対しても、井上委員は言います。

     「フォーラムとして調査をすると決めて、しかも日弁連の御協力も得て調査をした、その結果が出ているのに、それが回収率が低いからといって信頼性が低いと独自に評価して、しかもそういう説明を付けて独自に調査をしたというのは、手続的にも適切でない上、そういう説明を付けて実施しているという点で、そこまでの意図があったとは必ずしも思いませんけれども、結果として調査の信頼性を損なうもの、つまり、一定方向への誘導を生じさせ得るものですので、そのあたりも配慮されて然るべきであったと思われ、その意味からも、フォーラムとして行った調査の結果と並べてこれに言及するというのは適切ではない」

     いまさら、調査の信用性を損なうようなものを出してきても認められない、といった調子です。日弁連の補充調査のどこがいけないのでしょうか。何で留意点として認められないというのでしょう。

     一方、弁護士会費の問題を、井上委員は報告書に残すよう主張します。弁護士会が自治で決めることだが、地域によって会費格差があるのは事実であり、公平にも配慮してほしいと希望を表明することは差し支えがない、と。弁護士会側の努力で志望者減の解消に少しでもつながることならば、注文には入れておきましょうといったことでしょうか。

     最後には、フォーラムとは違い、法曹養成全体の議論を先行させる方向を打ち出し、弁護士会内で望みをつなぐ声もある民主党プロジェクトチームの8月21日の中間取りまとめについて、委員の南雲弘行・日本労働組合総連合会事務局長が違和感を指摘して、政府側の意向を質し、小川敏夫・法務副大臣が、「あくまでもまだPTの案」として、政策調査会で承認して党の政策になっていないことを説明する場面もありました。心配ご無用と言っているようにも、聞こえなくない説明です。

     この会議で、今後、日弁連はどんな存在感を示し、何を結論に反映させることができるのかはもちろん、注目しなければいけないことですが、それとともに、回を重ねるごとにますます明らかになってくる、この会の性格と、現実も、その結論の評価につながるものとして、きちっと記録されなければいけないと思います。


    ただいま、「法曹の養成に関するフォーラム」についてもご意見募集中!
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    No title

    johnさん、コメントありがとうございます。

    全くご指摘の通りだと思います。日弁連側はを戦術的には、会議当初から失敗しているような感じもあります。ただ、スケジュールにのっとって、いまさら聞く耳を持たないととれる姿勢はどうかと。後出しや「一定の方向に誘導を生じさせ得る」といった理由で、はねつけて出された会議の結果であることは、記憶されていいのではないかと思いました。

    今後ともよろしくお願いします。

    No title

    法曹関係者のBlogからこちらを知り、いつも興味深く読ませていただいています。
    「法曹の養成に関するフォーラム」第5回会議の様子について、他の弁護士の
    方のBlogでも読んだんですが、私がもった感想は「日弁連ってケンカの仕方が
    分かってないなあ」です。
    この会議の目的は、まさにBlog主様のおっしゃる通り「クギを刺す」ことだと思い
    ますし、日弁連、弁護士側もそれは当初から分かっていたはずだと思います。
    にしてはケンカの仕方があまりにまずい。
    「いまさら、調査の信用性を損なうようなものを出してきても認められない、といっ
    た調子です。日弁連の補充調査のどこがいけないのでしょうか。何で留意点と
    して認められないというのでしょう」とBlog主様はおっしゃっていますが、後から
    補充調査なんぞやったら、「そんなもん後から出してきて認められるか」とはねら
    れるのは初めからわかっていたはずです。ここでやるべきは、「後から補充など
    しなくて済む調査をきちんと行うこと」でしょう。その方法をとれなかった日弁連の
    準備が甘すぎただけのように見えます。
    給費制の当否の問題以前に、会議におけるケンカの進め方の問題かと。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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