「社会のドブさらい」という役割と環境整備

     「法曹界は、名誉ある『社会のトブさらい』であれ!」

     安倍改造内閣と福田内閣で法務副大臣を務めた河井克行・衆院議員は、著書「司法の崩壊」のなかで、弁護士を含む法曹のあるべき姿をこう書いています。

     「ドブさらい」とは、彼自身も認めるように、とてもいい印象にとられる言い方ではありませんが、彼があえてここでこう表現したのには、法曹を貶めるような意図はありません。

     国民一人ひとりの人生には、順調なものもあれば、そうでないものもあり、そこには妬みや恨み、嫉み、憎悪の感情が生まれ、事件も生まれる。そこで、社会の最低限の規律・法律の範囲におさまらない言動が生じ、それは、社会総体からみたらば、「ドブ」のような暗部である。だからこそ、その中のゴミをさらい、ドブを浄化し、社会福祉の向上を図る人が必要になる――と。

     「これは世のため、人のためを思う人間でなければできない仕事である。これほどの高邁で尊い仕事をできるのは、世の中にそうはない。そして、その手助けを行う実施部隊こそが、法曹界ではないか」
     「国民はおそらくその部分において最も弁護士を頼りにしている。社会の裏方であることをもって任じ、そこに名誉を感じて自らの使命に邁進する、そうした仕事の人物を、多くの国民は期待しているはずである」

     「社会のドブさらい」こそ、法曹の名誉ある地位であり、国民の期待だということです。当然、こういう意識の法曹を社会に送り出すのが、その社会が求める法曹養成の役割ということになります。

     この「ドブさらい」論に対して、弁護士側の一つのアンサーといえるものを、小林正啓弁護士が提示しています。

     「これは、国家が期待する弁護士像として一つの見識だが、名誉だけで社会のドブさらいという3K職場を進んで引き受ける弁護士は、ゼロではないが、とても少数だと思う」
     「まして、ドブさらいをしたくて高額の学費を払って法科大学院に入学し司法試験を目指す学生はほとんどいないだろう。河井議員の主張には、動機づけの観点が欠けている」(「こんな日弁連に誰がした?」)。

     つまり、いかに社会(小林弁護士は国家としていますが)が期待しても、現状では「ドブさらい」のために、法曹界に人はやってこない、ということです。逆に言えば、そういう人に来てもらうには、「動機付け」として、当然、マイナス要因を減らし、メリットを打ち出すしかないということになります。

     小林弁護士は同書のなかで、公務員でない弁護士に対して、国家が高給を保証できない以上、「動機付け」として最も重要なのは「法の支配」を実現するのにふさわしい「武器」を与えることだとしています。彼がいう「武器」とは対規制の制度です。株主代表訴訟の提訴要件緩和、懲罰的賠償制度の導入などが挙げられています。

     ただ、彼は訴訟社会的な方向を支持しているわけでなく、増員政策だけを掲げ、「武器」を与えない国家政策の一貫性のなさを言いたいとしていますが、さりとて増員とともに、これらの「武器」が用意されるとすれば、やはりまた一歩、わが国が「訴訟社会」に近づく、条件が整うということだと思います。「ドブさらい」を厭わない法曹を輩出するための、これが「動機づけ」なのかは、正直、よく分かりません。

     しかし、どうも弁護士増員推進の論理には、過疎・偏在対策でもみられるように、増員によって母数を増やせば、相対的に「有志」も増えるといった期待感があり、「有志」の比重を増やすことや、全体的な弁護士像のあり方が語られていない、もしくは諦めた印象を受けます。

     また、動機付けを含め、環境を考慮せず、名誉だけで「社会のドブさらい」になれ、というのでは、依頼者・市民に喜んでもらえるのならば、弁護士は食うことを度外視して「成仏」覚悟で仕事をすべし、という、以前、ご紹介した「成仏理論」にもつながりかねません。(「弁護士『成仏理論』が描き出す未来」)

     「増やせばなんとかなる」という発想から脱却し、本当に「社会のドブさらい」にもつながる「動機付け」となる環境整備が、検討される必要があるように思います。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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