「多様な人材確保」の本気度

    法科大学院について、「多様な人材」ということがテーマになります。しかし、これが意味するところはどういうことでしょうか。

     もし、新しい法曹養成制度の中核である法科大学院が、社会のさまざまなニーズに対応するための「多様な人材」を輩出する機関ということであれば、その教育自体が、多様なニーズにこたえる専門性や知識を身につけるものでなければならないことになります。

     しかし、「多様な人材確保」という言葉で、問題になるのは大概はそうではなく、法科大学院自体が「多様な人材」を受け入れることの方です。もちろん、受け入れたうえで、そうした素質・素因をもった人をさらに実務家として育成していく、というのであれば、それでも前記したのと同様、教育自体が問題にならないわけではありません。

     司法制度改革審議会の最終意見書には、こんな記述が出できます。

     「21世紀の法曹には、経済学や理数系、医学系など他の分野を学んだ者を幅広く受け入れていくことが必要である。社会人等としての経験を積んだ者を含め、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法科大学院には学部段階での専門分野を問わず広く受け入れ、また、社会人等にも広く門戸を開放する必要がある。そのため、法学部以外の学部の出身者や社会人等を一定割合以上入学させるなどの措置を講じるべきである。その割合は、入学志願者の動向等を見定めつつ、多様性の拡大を図る方向で随時見直されることが望ましい」

     やはり、問題は受け入れることの方です。しかも、それは端的にいって、法学部以外の人間と、社会人です。つまり、法科大学院が目標とする「多様な人材」というのは、まず、この二者の受け入れなのです。

     司法審意見書は、これに関連して、「公平性、開放性、多様性の確保 」という理念を掲げ、地域を考慮した法科大学院の全国的な適正配置とともに、夜間大学院や通信制大学院の整備、奨学金、教育ローン、授業料免除制度等の各種の支援制度の整備・活用を提言しています。

     そして、 標準修業年限は3年とし、「法科大学院において必要とされる法律学の基礎的な学識を有すると法科大学院が認める者」つまり、法学部出身者に限らず法学既修者について、2年の短縮型を提案しています。現在の未修・既修コースですが、実は未修の方が標準という位置付けになっていることも注目できます。

     今、法科大学院の問題として「多様な人材」確保という目標が達成できていないということが取りざたされていますが、つまりはここがうまくいっていないということです。夜間や通信はもちろん、社会人を念頭にしていますが、ここでき教育内容の限界がいわれています。一連の支援制度は、当然、経済的な意味で「多様な人材」側の機会保障ですが、いぜんカネのかかるプロセスの教育が、法曹志望者を遠ざけることが懸念されています。

     地域の配置は、「地産地消」などといわれ、弁護士が地域に根を下ろす形を想定していたようですが、必ずしも当初の期待通りにはならず、志望者は都会の法科大学院を目指しています。未修・既修の司法試験合格率には格差が生まれ、一年差で既修に追いつくという形になる制度設計にも疑問の声も出でいます。

     ある意味、この点についての、法科大学院の失敗と課題は、はっきりしています。つまり法学部出身者以外と社会人に、この制度が受け入れられやすいかそうでないか、それをなんとかできるかできないのか、そこに尽きるというべきです。そして、大事なことは、この点で、かつての法科大学院という過程を強制されず、誰でも受けられた一発試験である旧司法試験と、どちらがより適していたかということです。

     そもそもこうした「多様な人材」とされる人々にとっては、この制度は法科大学院という統一プロセスの強制でもあるわけですから、そこの支援策がよほど機能しなければ、プロセスが逆に壁になるのは、当然の話です。

     別の見方をすれば、現在の状況が続くこと、続いてしまう「改革」論議は、この制度とそれを支える関係者の、「多様な人材確保」に対する本気度が問われることのように思います。

     もし、これらを正しいと評価につなげようとするならば、合格率の向上頼みの話ではなく、機会保障の点で旧制度より後退しているという認識から制度を考える必要があります。実は、これからの議論は、まず、そのスタートに立つのか立てるのかで違ってきます。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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