弁護士の質が保証されないツケ

     弁護士が一定の「質」が確保されないまま、社会に放たれる状態とは、少なくともいままで以上に、弁護士とのコンタクトを持とうとする市民が「外れ」を引く危険性が高くなる状態を意味します。

     この事実は、増員政策を推進して、弁護士を競争によって淘汰させようと考えている方々は、ひとまず認めなければなりません。なぜなら、その過程がなければ、淘汰が起こらないからです。

     こうした話をしていたらば、この「淘汰」の考えをどちらかというと支持している立場の、ある司法関係者はこう言いました。

     「何も市民を甘やかすことはない」

     弁護士増員政策とそれに伴う競争に否定的な弁護士は、自らの経済的安定だけを考えた自己保身で言っているなどとして、推進派による「弁護士を甘やかすな」という趣旨の発言は度々、耳にしてきましたが、実はそれと同時に「市民も甘やかすな」というわけです。

     あるいはこれは初耳という、市民の方もいるかもしれません。しかし、これは今回の「改革」に関して言えば、基本的な話なのです。

     司法制度改革審議会最終意見書を受けて、2002年に政府が発表した司法制度改革推進計画には、こういう記述があります。

     「社会の複雑・多様化、国際化等がより一層進展する中で、行政改革を始めとする社会経済の構造改革を進め、明確なルールと自己責任原則に貫かれた事後監視・救済型社会への転換を図り、自由かつ公正な社会を実現していくためには、その基礎となる司法の基本的制度が新しい時代にふさわしく、国民にとって身近なものとなるよう、国民の視点から、これを抜本的に見直し、司法の機能を充実強化することが不可欠である」

     つまり、この目指すべき社会の司法もまた、「自己責任ルール」が貫かれるということです。新自由主義経済的な考え方では、国民の保護が社会的競争の足を引っ張る要素としてとらえますから、公共的保護や社会保障はできるだけ切り下げられるという政策に向かいます。新自由主義的な考え方の影響を受けているこの「改革」もまた、実は自己責任が重視されているのです。

     自己責任というテーマについての、社会的な了解のポイントは、要するにそれを課されることで確保される競争のメリットと、自己責任で国民に課される負担の大きさの問題です。

     ただ、こと司法改革で、この両者について国民の了解という点が、それほど大きな問題にならなくて済んでいる理由は明らかです。それは、端的にいって、「司法」だから、ということになります。つまり、司法にかかわることを想定していない、多くの国民にとって、司法の世界の競争によるメリットも、自己責任が課されるデメリットも、さしせまった関心テーマでもなければ、リアルに想定もできないことだからです。

     弁護士に依頼しなければならない事態となり、その現実に直面して、初めて国民は、自分の抱えている問題を解決してくれる弁護士を探す難しさ、まして質を見分け、より良質を選ぶことが、現状でも、いかに困難で、かつ危いことなのか分かるはずです。

     そこでは、「資格」による質の確保が、より保証されていることこそ、国民の安心であることかを実感するはずです。今、現在が、完全にそれを保証できているわけではない、ということも事実ですが、それならばなおさらのこと、より「資格」を厳格化して、「質」の確保の安全に向かうのならまだしも、さらにここを「競争」のために緩め、国民の自己責任を伴う「淘汰」を目指すというのは、どういうことでしょうか。

     競争のメリットであるはずの、「淘汰」による良質化はいつやってくるのか分からず、いつまで「自己責任」で依頼者・国民が泣かされるかも分かりません。国民が「外れ」を引く可能性がずっと続くことによって、また、その犠牲によって、弁護士を「淘汰」させる形を描いているのが、この「改革」なのです。


    ただいま、「今、必要とされる弁護士」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
    http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信開始!無料読者登録よろしくお願いしますhttp://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR