欠陥制度が維持される共通事情

     「この国の制度はいったんできてしまったら最後、えんえんと続くようなところがある」

     偶然にも、最近、別の機会に二人の人間から、こんな同じセリフを耳にすることがありました。もちろん、これは批判的な言い方です。制度が構築されてスタートしまうと、決定的な問題があることが分かっても、早々にそれを抜本的に見直したり、よっぽどでなければ、中止したり、構築前の旧制度に戻すということはない、ということです。

     制度構築時に、その問題性に気が付かなかった場合や、運用してみて、決定的な問題が発覚することも、もちろんありますが、残念ながら、そうしたケースばかりではありません。問題性を指摘する意見や懸念がはっきり打ち出されながら、それに耳を貸さないということの結果である場合もあります。問題を提起していた側がやりきれないのは、当然、分かっていた結果とみえるからで、場合によっては、避けられた「失敗」ととれるからです。

     一般論として考えても、こうした感覚自体は、そんなに珍しいものではないかもしれません。「原発」は、まさにその典型で、この国の何人もの人が、避けられた「失敗」にやりきれない思いを持つと同時に、冒頭のセリフと同様の認識を確認したとは思います。ただ、付け加えておかなければならないのは、この二人のセリフは、奇しくも「原発」ではない、同じ制度に向けられたものでした。それは法科大学院制度です。

     制度をめぐる論議、法科大学院関係者の発言を知る、その二人の口から出た、このセリフは、とても悲観的な響きをもっていました。つまり現在の法科大学院制度が目に見えて、失敗と行き詰まりの様相を呈し出しながらも、おそらくえんえんとこれも続けられようとするのではないか、はたまた抜本的な見直しや廃止という方向は、それが一番、社会にとって望ましい選択と仮に分かっていたとしても選択されないのではないか、ということです。

     なぜ、そういうことが起こるのか。実は、これもまた、一般論としてくくれなくない話です。制度構築の「失敗」は、もちろん責任が発生する場合があります。それが、何年も運用されてのことではなく、開始早々、問題が起きて当初の見込みを大きく外れ、その回復の見通しがなければ、それは、当然、見込み違いの責任が問われる可能性は高くなります。

     したがって、そうしたことを回避するためには、「見通せたはず」ということを認めず、この結果に対しては、まだ最終結果ではないとして、改善による新たな見通しを強調することにもなります。

     しかし、制度に固執する理由は、責任回避ばかりではありません。つまり、新しい制度によってできた新しい利害関係を崩したくない、ということがあります。もちろん、事前の「投資」がのしかかっている場合もあります。問題を引きずりながらでも、なんとか「利」につなげたいという意識です。

     もし、本来の趣旨に合致しなくなった制度でも、それにしがみつく制度構築者だとすれば、そもそもその制度が本当にその趣旨のもとに形づくられたのか、そこを疑われてもしようがありません。

     法科大学院の受験資格要件化の合理性、教育と合格率のバラつきと学校間格差、試験対策ではない指導と合格率での評価の矛盾、予備試験冷遇の無意味性、多様な人材確保から離れる実態、経済的負担による志望者離れ、実務家教員が中心ではない実務家養成、既修・未修の制度設計の無理――。

     こうした法科大学院制度がはらむ現実と、その解決への見通し、さらには、それでもとりあえず合格させよ、質は淘汰で保て、弁護士会は増員に反対するな、という法科大学院関係者の言に前記一般論をかぶせれば、どんな答えが導き出されるのでしょうか。

     実は、冒頭のセリフは、裁判員制度開始に直前にも、法律家の中から聞かれたセリフでした。問題があっても、あるいはなかったことにしてでも、制度が存続する危険があると。また、官僚機構とは、またそうした制度にストップをかけにくいものなのだ、と。

     この「改革」の見直しというテーマを考える時、それが本当に意味のあるものになるか は、やはり、どこまで既定路線に縛られず、どこまで原点に返った議論が現実にできるのかにかかっています。


    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
    http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信開始!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 資格試験
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR