「合格1000人妥当」を口にできない理由

    なぜ、司法試験合格者年3000人という「改革」の目標が問題視されているなかで、弁護士会は明確に合格者年1000人を提言することができないのでしょうか。

    おそらく多くても合格者年1000人という数値辺りが、実は、経済的な意味でも、あるいは後輩を実務の中で養成していく意味でも、本音では適正規模と思っている弁護士は多いように思えます。

     宇都宮健児・日弁連会長も、昨年「当面1500人が妥当」として当選しましたが、地方会の声に耳をかすといった同会長が、「1000人~1500人」の線で、政策を進めるという期待感も会員間にあったとようです。しかし、その会長も、どうもこの辺を明確に打ち出す感じではありません。(「宇都宮日弁連会長への『失望』の行方」)

     この会員間にある「1000人妥当」を、少なくとも感覚的といって批判することはできません。もともといかに「フランス並みの5、6万人」を10年で達成することの逆算であるといったところで、「3000人」が妥当というのも感覚的な数値です。しかも、こちらの方は、現在の法曹養成の枠組みで達成できなかった数値であると同時に、経済的に成り立つ形で存在することの困難さが具体的に判明した数値ですから、よほど不利なはずです(「日弁連が『3000人』を受け入れた場面」)http://kounomaki.blog84.fc2.com/blog-entry-240.html

     それでも日弁連や多くの弁護士会が、会員の本音を汲んで、これを打ち上げるという方向にいかないのはなぜなのか、ということです。日弁連が合格1000人を提言などということになったら、またぞろ翌朝の「朝日新聞」が、「反改革」となじる論調を掲げるのが怖いのでしょうか。はたまた、その論調に染まっている市民が離れていくのが怖いのでしょうか。

     実際には、そういうこともなきしもあらずだと思います。これまでも決まって「通用しない」と声高に言われるなかには、「世論」からの孤立への恐れが込められていました。

     ただ、今回、そうではないとすると、考えられる理由は、「法科大学院を中核とした新法曹養成」擁護ということにもなります。いうまでもなく、合格1000人にするということは、少なくとも現在の法科大学院体制を根本的に見直すことが決定的になるからです。それを現実的とみていないか、それが不都合な方々がいらっしゃるということになります。

     本音がいかに多数でも、そこがこうした意見を凌駕できない現実があるとすれば、それは弁護士という仕事の性格からも、また会内民主主義をいう弁護士会としても、あまり誇れない現実のように思えます。

     論理的職能集団でありながら、弁護士・会が、これまでも本質的な論議を回避し、いわば情勢論で方向を選択するのを見る時、いつも思うことは、専門家の提言の意味です。仮に世論から孤立しても、実は専門家の指摘には社会に出される意味があります。

     なぜなら、またそれが世論の公平な判断のための材料になるからです。いうまでもなく、マスコミ論調を気にして沈黙すれば、そのマスコミ論調だけに接している大衆には、永久に判断材料は与えられなくなります。マスコミ論調が、必ずしも正しくないという認識が広がりはじめている現在、よりマスコミにそわない専門家の論調は出される意味はあります。「改革」の既定路線も大衆に向かって問い直されていいと思います。

     兵庫県弁護士会から上程していた司法試験合格者年1000人とするべきとした決議が近畿弁護士会連合会の理事会で、賛成6、反対29で、否決されたということが、武本夕香子弁護士のブログ。それによると、驚くことに反対意見で多かったのは、「会内での議論が未だ行われていないから」というものだったそうです。

     では、早速議論をすればいいではないか、と言いたくなりますが、そういうことではないようです。これは議論をあえてしてこなかったし、しないということ、つまり反対のための反対意見なのです。これを弁護士らしいと言ってしまったら、相当な弁護士に対する皮肉になってしまうはずです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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