「国民サイド」という弁護士の自負と課題 

     かつて多くの弁護士には、「国民に近い」もしくは「国民側」という自負があったように思います。もちろん今でも、そうした意識を持っている人もいますが、特別に意識していない人は多いように感じます。そうしたことを口にする人間が減ったということかしれません。

     以前、弁護士がこうした表現を使うのは、対裁判官・検察官という意味合いが強かったと思います。つまり、法曹三者のなかで、弁護士は一番「国民に近い法曹」「国民側」ということを強調していたわけです。

     だから、かつてこうした切り口が弁護士会側から強調されるのは、むしろ対国民というよりも、司法のなかでの弁護士・会のポジションや役割が、対権力、対官僚の視点でいわれる局面が多かった印象があります。

     その典型が、弁護士会が長く悲願としていた「法曹一元」というテーマでした。裁判官を弁護士、もしくは経験のある弁護士から採用するという制度です。まさに、ここでいわれたものが、弁護士が国民に近い法曹として、人権感覚に優れ、生きた社会での経験を持つ存在であり、そうした人間が裁判官になるこが公正な裁判につながるというものでした。

     別の言い方をすれば、これは弁護士経験の優越性の主張です。こうした弁護士の経験が、キャリア裁判官の経験より上位にあり、当事者の立場に立ち、人権を配慮するうえで、より優れているということです。

     こうした意識は、実は日弁連の法改正反対運動や、さまざまな人権にかかわる活動にかかわる弁護士たちの根底にもあったと思います。それは、国民の側に立っているという疑うことのない自負になっていたようにも見えました。

     ところが、その同じ弁護士が、国民に向ける顔としては、自負の念をもってきたかといえば、不思議なことにそうでもない面があります。人権救済や再審への取り組み、反権力的な問題をはらむ活動をする弁護士たちは、その活動のなかで、国民に向かっても、前記自負をもって、その存在感を強調してきたとは思います。しかし、市民生活のなかにある事件に対処するにあたっては、長く弁護士は自らが、敷居が高い存在であることを自認し、身近になることを課題としてきたのです。

     つまり、法曹三者のなかで、「国民に近い」「国民側」という弁護士は、一方で、国民から近くないことを懸念し、もっと近づくことをテーマにしていたのです。

     ところが、これは全体としてうまくいっているのか、疑問かあります。弁護士の中にはできるだけ情報を公開し、利用者目線に立って考えることで敷居を下げて身近になる努力をされてきた方が沢山いますし、その成果がないわけではありません。ただ、それにもまして、弁護士への国民の信頼は高まっているとはいえません。

     それは、一口にいえば、「安心できない」存在になりつつあるということに思えます。弁護士という存在が、一定の能力と一定の資質を持ち合わせていること、その地位を悪用して、お金を取ったり、不当な形の事件処理をするような存在では基本的にはないのだ、という安心感がなくなりつつあるのです。この国で、もっとも高度な教育と試験によって選別された「資格」という裏付けが崩れているといってもいいと思います。

     このことは、前記弁護士の努力に反して、頼るべき存在としての「身近さ」への道を阻害していることは明らかです。

     また、マスコミによる「ギルド批判」といった体質批判をされた弁護士会が、「国民に見放される」という孤立感への恐れから、既に今回の「改革」論議のなかで、本質論ではなく情勢論に傾斜したととれる歴史もあります。「国民側」という自負が、大きくぐらついたととれる時期もありました。

     実は、前記弁護士会が悲願としてきた「法曹一元」には、大前提として、弁護士会が掲げてきたような弁護士経験の優越性が、社会から受け入れられる必要があります。弁護士に対する評価があってこそ、彼らこそが裁判官にならなくてはいけない、という社会的了解につながり、そうでなければ、裁判の権威もなくなります。比較において、キャリア裁判官よりも弁護士、という認識が根底に必要です。

     裁判に民意を反映するということでは、この国は、法曹一元によって裁判官を弁護士出身者にするのではなく、直接、国民を裁判に参加させ、裁くことを強制する手段を選択しました。いまや、法曹一元という言葉は、「改革」をめぐる論議でも、弁護士界のなかでも、聞かれなくなりつつあります。

     今、そしてこれから、多くの国民は、弁護士をどういう存在としてとらえるのでしょうか。弁護士は社会から尊敬される存在になれるのでしょうか。そして、そういう国民とのつながりのなかで、もう一度、弁護士の口から自負の言葉を聞くこともできるのでしょうか。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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