伝えられない裁判員裁判の弁護士

     2003年に公開された日弁連企画の映画「裁判員」を、当時見た弁護士が、意外な感想をもらしたことを覚えています。

     「弁護士の存在感が薄い」

     確かに、そういう印象を受ける映画でした。ただ、これは必ずしも日弁連企画との関係で言われた映画への感想ではない、と感じました。つまり、この映画が映し出した裁判員制度そのものへの弁護士の率直な意見ととれたのです。

     これは、あくまで「裁く側」、つまり参加する国民を主役とし、「裁かれる側」に光が当てられていないこの制度の性格を反映しているように思いました。「裁かれる側」がかすむことは、取りも直さず、弁護士がかすむことでもあったのです。

     制度反対の弁護士グループからは、この映画について、こんな手厳しい評価もありました。

     「現実には弁護人は全精力を傾け目撃証言の信用性の有無を詳細に論じるのに、映画中の弁護人は必要不可欠の主張を何もしない。会員弁護士を無能に描き出すことに腐心する日弁連企画のおぞましさ」
     「現行刑事裁判の問題点の徹底的隠蔽!事前準備手続の経過も被告人の身柄拘束の有無も明らかにせず、迅速化だけは確実に実現する裁判」(「憲法と人権の日弁連をめざす会ニュース」32号)

     すべてはこの制度の主役が誰なのかを、この映画が裏付けているという話です。

     裁判員裁判開始から2年。その現場にいる弁護士たちからの同裁判に対する厳しい批判が、反対運動の事務局に寄せられています(「裁判員制度はいらない!全国情報」21号)。

     まず、挙げられているのが、公判前整理手続きが弁護活動制約につながっているという問題。

     「原則として公判では新たな証拠は提出できないから、弁護人としてはできるだけ多くの証拠の証拠調べ請求をすることになる。裁判所は主張との関連を明らかにせよと求めてくれば、手の内を明かさなければならず、被告人の黙秘権と弁護人の防御権の実質的制限となる」
     「弁護人の手の内を知った検察官は、追加証明予定事実記載書を2回も追加提出し、証言内容をガチガチに固めてしまった」

     必然的に長期化する同手続きによって、被告人の身柄拘束の長期化も生まれています。一方、公判は「裁判所が『裁判員の方々をお招きしている』という感覚、裁判員は『おもてなしを受ける』感じ」で、裁判官の頭の中は「裁判員の拘束を短くすることしかない」。

     「裁判員の負担を気にして頻繁に休憩を取るが、裁判員は調書の中身を理解していない」ので、「裁判員の質問の前に休憩を入れていることから、裁判官が質問内容の指導をしていることが伺われる」といった指摘もされています。

     裁判員を意識した検察官立証は「感情的な表現の多様や茶番のようなパフォーマンス」「ディスプレイの印象づけに腐心」。被害者参加の逆風もあり、「争えば争うほど、被害者の求刑は重たくなる」「被害者の落ち度を言っても身勝手な言い訳と受け入れてもらえない」。

     もともと刑事弁護で、組織の検察に対して、厳しい闘いを強いられる弁護士が、裁判員制度ではさらに厳しい立場に置かれているという声も寄せられています。

     「弁護士が、ほかの仕事を犠牲にして、現場にも走り、近所の聞き込みもやり、資料も自分で作る。検察官は給料をもらって裁判に専念している」
     「時間的に余裕がなく、事件の背景まで切り込んだ立証に限界がある。事実認定について、証拠を吟味する時間的、心理的余裕がない。無罪を争う場合、十分な立証ができるか、大いに疑問を感じた」
     「裁判員制度は刑事裁判をどんどん危険なものにしている」

     これが、日弁連をして描くことがなかった、この制度に臨んでいる弁護士と弁護活動の本当の姿であり、同時に描き切ることができなかった「裁く側」を主役とするこの裁判の現実です。

     そしてこれはまた、制度スタート2年が経過しても、大マスコミが取り上げず、「裁く側」として、また「裁かれる側」として、この制度にかかわらざるを得なくなる国民に伝えられていない現実なのです。


    ただいま、「裁判員制度」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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