不安を引きずってきた増員優先の「改革」

     「質・量ともに豊かな法曹を作る」ということが、今回の司法改革の一つの目標として語られてきました。法曹人口の増員も、新たな法曹養成の中核を担うことになった法科大学院のあり方についての議論でも、このことが言われます。

     司法制度改革審議会の最終意見書には、こういう下りがあります。

     「今後の社会・経済の進展に伴い、法曹に対する需要は、量的に増大するとともに、質的にも一層多様化・高度化していくことが予想される。現在の我が国の法曹を見ると、いずれの面においても、社会の法的需要に十分対応できているとは言い難い状況にあり、前記の種々の制度改革を実りある形で実現する上でも、その直接の担い手となる法曹の質・量を大幅に拡充することは不可欠である」

     法曹に対する需要の量的増大がいうところが、いうまでもなく数の不足です。それに対して、質に関して、いわれているのは多様化、高度化です。つまり多様な分野と高度なレベルに対応できることのようにとれます。

     しかし、「改革」の理念がこのようなものであったとしても、「改革」当初から法曹界でこの二つの用語の使われる場面は、前記意見書の指摘とはいささか違っていた印象があります。それは既定方針となった数の増加に対して、いかに質を維持するか、落とさないかとういう話たったのでした。それは、とりもなおさず、10年で司法試験の合格者を3倍にするという計画が、当然に法曹の質を脅かす危険があることを、法曹関係者の多くは警戒していたということだろうと思えるのです。

     法科大学院関係者のなかには、旧司法試験で合格した現役法曹の質を声高に問題視する声もありましたが、法曹界の受け止め方は全体としてそうではなく、むしろより低下するおそれだったのです。

     つまり、ここで登場していた質の話は、「社会・経済の進展」に対応した法曹のことではなく、それどころか、むしろ現状の法曹の質をこの大増員計画のなかで、いかに確保するということだったといってもいいと思います。それは、合格率の低さがいわれようとも、「なんとしても質は下げない」という裁判所関係者の言葉にも現れていました(「『弁護士量産制度』の割り切られる結末」)。

     質・量とことさらにこれを並べて強調するのは、この「改革」がまず増員ありきで進むのではないか、と見ているからで、現実もそういう形で進行していると思います。つまり、質をなるべく保ちつつ、量産を実現する、ということのようにとれたのです。

     実は前記司法審のなかでも、この点はもちろん議論になっています。実は、注目すべきやりとりが、平成12年8月7日の司法審集中審議の第1日目にありました。この日、仮に能力が欠けている場合を想定し、合格定員があっても、結果次第ではそれを大きく割り込んでいってもいい制度設計が、法曹養成の基本ではないかという意見に対し、強力に法科大学院修了者の「7、8割合格」の実現を主張し、これに反論したのが、弁護士側で参加していた中坊公平氏でした。

     そして、この中で中坊氏は、こう言い放ちます。

     「量と質というのは常に決して両立しにくい概念だと思うんですよ、率直に言って。しかし、どちらを選ぶんだと言えば、私は今必要なのは量だと思うんです。今、日本で欠けているのは量だという意識がなければ、どっちかと言えば大義名分がいつもできてくるので、まず今、社会において何が欠けているかと言われれば、やはりそれを担っている弁護士の数が少な過ぎる、今おっしゃるように『社会生活上の医師』というにしては余りにもお粗末なことであるというところが、私は今の司法の病気の原因だと思います」
     「まず先に人数ありきでは決してないんですけれども、しかし、あえて言うならば、私はまず量というものを相当程度重視して考えないと、この司法の抜本的改革はできない」

     とにかく量であり、それが実現できる「7、8割合格」になるような制度にせよ、ということをおっしゃっています。「7、8割合格」が一人歩きすることへの懸念はほかの委員からも出でいましたが、ご存知の通り、この数字は最終意見書に盛り込まれ、現実がこれを大きく下回った結果、「詐欺的」といわれることになりました。

     質・量といいながらも、この「改革」はまず、法曹人口にしても、法科大学院を中核とする新法曹養成にしても、まず、量が優先され、それを至上命令として進められてきたものといっていいと思います。

     いまや、法科大学院関係者から、質の低下はやむなしとして、とりあえず合格させ合格率を上げ、質は「淘汰」の論理で、といった声が聞こえてきます。

     社会に実害を与える「質」はなんとしても維持し、その維持できるレベルで数は増やす、質を維持できないのであれば、養成者の責任で数はむやみに増やすことはしない――もともとの設計者の発想から、こういう制度ではいことが根本的な問題のように思えてなりません。


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    なすべき改革は明白

    法科大学院の入学前に司法試験をやればいい。それだけで、問題は解決する。

    司法試験に準じる法律試験で、全国の志願者を3000人~4000人に絞る。
    その合格者だけが、法科大学院に進学する権利がある。(合格したあとで、合格者が自由に大学院を選んで応募し、大学院の入学試験を受ける。)
    そして2年後、卒業後の試験で実務法曹の力を持っているか試験する。

    これならば、現在の新司法試験合格者レベルの人材をより大勢、育成できるだろう。
    合格者を2000名に絞るならば、現在よりもずっと高いレベルの人材が輩出されるかもしれない。
    問題は、人数あわせではない。やり方の問題です。

    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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