法科大学院「定員数削減」への期待の中身

     日弁連が今年3月に発表した「法曹養成制度の改善に関する緊急提言」には、緊急の対応策の一番目に法科大学院総定員の大幅削減が掲げられています。

     2005年度に5825人だった一学年総定員は、2011年度には4571人まで削減されましたが、4000人を緊急に実現するだけでなく、さらなる削減を図る必要性を指摘しています。

     また、日弁連は2009年1月の「新しい法曹養成制度の改善方策に関する提言」でも、この定員削減をまず第一に挙げていましたし、今年6月に宇都宮健児会長が出した 「司法制度改革審議会意見書10周年に当たっての会長談話」でも、政府の「法曹の養成に関するフォーラム」に対し、給費制維持とともに「法科大学院の総定員削減等」の合意努力を求めています。

     これを見る限り、日弁連は、現在の法曹養成、とりわけ法科大学院の改善のなかで、この定員数削減を重視しているようにとれます。

     しかし、ここで考えなければならないのは、何のために定員削減をするのか、ということです。法科大学院側の定員削減の動きは、既に2008年ぐらいから出始めていることですが、その時にもそれが言われました。つまり、この政策が法科大学院の教育水準を上げるのか、そうした目的のものなのか、ということです。

     いうまでもなく、法科大学院側にとって定員数削減は、直接収入の減少につながります。大学側の経費は、定員減としたところで、一定の設備や教員の確保の必要性から削減はそれほど期待できないという見方もできます。

     それでも、選択しなければならない事情といえば、それは当然、合格率ということになります。しかも、それは果たして中身が伴っているのか怪しい合格率ということもできます。法科大学院修了受験者の分母を減らすことによって合格率の向上を図るようにもとれるわけです。

     つまり、これが修了者の「7、8割」司法試験合格の触れ込みで始まり、既に3割を切っている現状をまずは表面的に改善する、ということです。そして、この狙いは、法曹志望者減少の決定的な要素となっていると法科大学院関係者がとらえている合格率の問題を解消するというところにあるのも明らかです。

     法科大学院を目指す人の目的は、なんといっても新司法試験に合格して法曹になることにあります。旧司法試験に比べて、はるかに経済的にも負担になるこのプロセス強制も、「合格できる」という一事をもって、その結果を出すことによって、志望者を納得させ得る、つなぎ得るという見込みということもできます。

     少人数教育が、学生のレベルアップにつながるとの見方をする人もあります。しかし、今現在、それがどういう見通しによるものかは、判然としないものもあります。そもそも指導という意味では、受験指導ではない合格率アップの指導が求められている法科大学院の無理と、このレベルアップの指導とはどうつながっているのか、ということもよく分かりません。

     要するに定員数減は、その意味で、直接的な志望者減対策ということができます。法科大学院側の収入減少覚悟で、この方策がとられるとすれば、とりも直さず、「法科大学院離れ対策」の方に優先順位を持ってきたことにもなりますし、それがまた、法科大学院側にとっての深刻度を示しているようにもとれます。

     さて、日弁連の前記提言は、この点をどう解釈したものなのでしょうか。教育のレベルアップにつながるかどうかも分からない「弥縫策」ともいわれているこの方策を、本当の意味でどういう風に受け止めてのことかということが気になります。「法科大学院を中核とする」という立場を堅持している日弁連が、「生き残り」を視野に入れた法科大学院側の政策にどのようにかかわっていくのかの問題です。

     ちなみに法曹養成では今のところ最新といえる、「貸与制」移行を基本とした「フォーラム第1次取りまとめ」に対する8月31日の会長声明で、宇都宮会長は、こう述べています。

     「現在、法科大学院の入学志願者は急激に減少し、その質の低下も指摘される等、新しい法曹養成制度は危機的状況にある。法曹志願者減少の要因は司法試験の合格率の低迷、司法試験合格後の就職状況及び法科大学院の高額な学費負担であり、このような問題点にメスを入れないまま司法修習についても給費制を廃止して貸与制を実施することは、法曹志願者をますます減少させ、経済的理由により法曹になることを断念する事態を広範に生じさせることは明らかである」

     要因として掲げられているのは、どれも事実です。しかし、法科大学院本道の旗を降ろしていない日弁連が、果たしてそこにどこまでのメスを入れることを求めているのかは、依然、不透明です。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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