「本題に取り組め」という「朝日」社説の本音

     相変わらずの朝日新聞――9月5日付けの社説「法律家の養成 腰据え本題に取り組め」を読んで、少なくとも弁護士界内には、こう感じられた方は少なくなかったと思います。

     「法曹の養成に関するフォーラム」の「貸与制」移行を盛り込んだ「第一次取りまとめ」を受けたものですが、結論からいえば、ここで示されているのは、「改革」路線を礼賛し、それに対して問題提起している側を「抵抗勢力」として描き、そして何よりもそうしたイメージを何度となく、大衆に刷り込もうとしている「朝日」論調の既定路線です。

     その意味で、「朝日」論調をご存知な方からすれば、基本にスタンスとして、驚くようなことも、目新しいことも何もない社説です。

     「貸与制」移行決定を「遠回りをしたが、妥当な結論」とし、昨年秋の転換を日弁連の「金持ちしか」論で先延ばしになっていた、委員のなかでも給費制主張したのは日弁連推薦の一人だけだった、と。そして「フォーラム」実施の所得調査を挙げ、「6年目の平均所得は1千万円を超すのに返す額は月2万数千円」と、あたかも「これだけもらってて何をいうか」といった調子です。

     日弁連が、いかにも現実離れした弁護士の経済事情を持ち出し、まるでいいがかりのような主張で、「遠回り」させられたような言い方に読めます。いうまでもないことですが、なぜ「給費制」が取られてきたのか、「フォーラム」委員の構成がどうだったのか、この調査だけで、「返せるのならばいいじゃないか」という結論になるのか、そこについて、疑問を喚起するようなことは一切書かれていません。

     そして、嫌な感じがするのは、その次の下りです。

     「『税金の使い道はメリハリをつけて有意義に』という納税者の当然の思いが、議論に反映したといえよう」

     こんな話がどこにあるのでしょうか。前記委員を介して、「フォーラム」がそういう場になったという認識でしょうか。一般的に税金の無駄遣いをやめてほしい気持ちが納税者にあるのは、当たり前ですが、「議論に反映した」という事実が何をもっていっているのか分からないうえに、こと「貸与制」移行についても、あたかも前記税金への気持ちがかぶせら得るように、勝手に納税者の「思い」を忖度しています。

     大衆が「給費制」問題にどのくらい目を向けているかは分かりませんが、少なくとも、前記「朝日」の報道姿勢では、フェアな判断材料が与えられているとは思いません。それによって、納税者の思いも変わる可能性はあります。「朝日」の手法は、判断材料が与えられていない大衆が、「そりゃそうだ」というところを二重カギで提示しているだけです。

     「改革」に対する「朝日」の本音がうかがえる下りがあります。「給費制」見直しは、法律家の増員や法科大学院、法テラスの設立などの「改革」の一環であるとし、司法機能の拡大、「法の下で平等、対等に生きる社会を築く」という「改革」の思想を確認したうえで、こう書いています。

     「その施策の一部を抜き出して曲げることは、全体の骨格を揺るがし『一部のエリートが担う小さな司法』への逆戻りを招きかねない」

     「フォーラム」でも、日弁連側は「給費制」問題は法曹養成全体を議論するなかで結論を出すべき、と主張しています。その中には、仮に日弁連側委員が否定しても、「朝日」が挙げる法律家の増員や法科大学院の在り方に関する「改革」路線に対する根本的な見直しに及んでもおかしくない論点が含まれています。

     その法曹人口激増方針や法科大学院中心主義の見直しなど、「全体の骨格を揺るが」す可能性のある議論を「朝日」は「改革」の逆行として、はっきりと嫌っています。これを「給費制問題を考えるうえで忘れてはならない視点」というのであれば、そもそもこの問題で、「朝日」がどこまで抜本的な議論をする気があるのか、そのことがまず、疑われてもしようがないと思います。

     「朝日」は、司法審路線の「大きな司法」や司法試験の合格率アップ、法科大学院再編、法律家の活動領域拡大を挙げながら、「法曹界以外から多くのメンバーが入っているフォーラム」を、議論と合意形成にふさわしい場のように持ち上げています。「フォーラム」を頭からそう描いていること自体、現実から目を背けているようにとれますが(「法曹養成論議の『利害関係団体』」)、前記「本題」のように掲げているメニューを見る限り、「改革」路線に踏み込む見直し論議を選択肢から外している印象です。

     「朝日」は奇妙なことを言っています。

     「気がかりなのは、かつてあった改革への熱意が最近の経済界から感じられないことだ」

     なぜ、こうなっているのかということを「朝日」は全く言及していない、というのか、ここを突っ込む気がないように読めます。弁護士の増員の「受け皿」として挙げられる企業側の関係者から、その過剰期待に困惑する声が聞かれます。大量の「受け皿」にはなり得ない、という本音です。当然、ここで考えなければならないのは、「改革」の見込み違いであり、それへの「反省」と「見直し」のはずです。しかし、「朝日」はこれを「前向きな姿勢で臨んでもらいたい」という一言で済ませています。

     もっともこれも、増員の「受け皿」の話になれば、「なんとか雇ってほしい」の一言で終わらせている、これまでの「朝日」の切り口で、実は何も目新しいことではありません。

     タイトルの「腰据え本題に取り組め」という言葉は、「給費制」という「本題」ではないことについて、依然、維持の旗を降ろさない日弁連に主に向けられていることは明らかです。しかし、全体の骨格を揺るがすような抜本的な議論は避け、「改革」推進に不都合な現実からは目を背け、国民に伝えない「朝日」こそが、実はこの問題に腰を据えて取り組む気がないように見えます。


    ただいま、「『給費制』廃止」「法曹の養成に関するフォーラム」についてもご意見募集中!
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    丙案も,

    丙案(優先枠制度)も,
    当時,合格者の平均年齢を引き下げるという目標が示され,
    この目標を,表面上,達成させるという,ただそれだけのために
    強引に導入されたものでした。

    若年齢者の合格率が上がった当たり前の結果として,
    思惑通り,見かけ上,合格者の平均年齢が約1歳若返ったことを受け,
    目標が達成された,とその成果がはしゃぎ気味に伝えられていたことを
    はっきりと記憶しています。

    どの分野においても言えることですが,
    結局のところ,この国の政治家も官僚も,
    合理性のない目標を設定して,
    合理性のない方法でこれを達成したと見せかけて,
    仕事をしたフリをし続ける,ということを繰り返しているのですよね。

    司法は,こういう輩を抑えるためにある制度なのですが,
    すっかり取り込まれてしまいました。
    弁護士会の執行部自身が,同様の体質を持っているのですから,
    当たり前ですね。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
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