弁護士の出番が増える社会の描き方

     今回の「改革」での法曹人口をめぐる論議では、法律家の間で「法の支配」とか「法化社会」といった言葉が度々登場してきました。この言葉は、なんとなく同じようなニュアンスを持って受け入れられているようなところがありますが、違いがあります。

     以前にも書きましたが、「法の支配」という表現は、「社会のすみずみまで行きわたらせる」という文脈で登場し、あたかも私人間紛争を裁判所や弁護士が乗り出す社会を是としているニュアンスで流通していますが、本来統治権力を拘束し、人権を保障させるという意味ですので、誤用の疑いもあります(「『法の支配』というイメージ」)。

     一方、「法化社会」は、大衆側が法を基準として判断・行動し、紛争の解決を図る社会といった意味になります。大衆にそうした意識や知識を根付かせるということでは、いわれる「法教育」といったテーマとつながりますが、前記「社会のすみずみ」という文脈でいえば、「法の支配」の「誤用」の方の解釈とつながり、全体的として大衆が紛争を裁判所に持ち込んだり、弁護士を頼る社会が望ましい形として描き出されています。

     「改革」がこれを目指すというからには、この描き方がどうしても前提として成り立たなければなりません。日本が「法の支配」が行き届いていない、「法化社会」ではないということです。しかも法曹人口を激増させて、「大きな司法」を目指すというのであれば、程度としてかなりの劣悪度を示す必要もあります。

     そこに、司法が二割しか機能していないという「二割司法」や、それがイメージしている大量の泣寝入りとか不正解決の存在が描き込まれているわけですが(「大量『泣寝入り社会』という描き方のツケ」)、少なくともその極端な見方については、根拠性が疑われはじめています。もちろん、大衆の認識としても、仮に泣寝入りや不正解決の存在は認めても、「法治国家」である日本の現状を、そこまで劣悪な環境として認識しているのかは、かなり疑わしいと言わざるを得ません。

     その点からみても、既に「改革」は、その描き方の極端さから前提がぐらついている観があります。

     ただ、問題は、この大量泣寝入りと不正解決の不存在だけではない、との見方もあります。

     「仮に『法化社会』の言葉が『皆が約束事を守る社会』のことを言うならば、法曹、なかでも弁護士を増やす必要などまったくない。なぜなら、人々に約束事を守らせることが、弁護士の仕事ではないからだ」

     安倍改造内閣と福田内閣で法務副大臣を務めた河井克行・衆院議員は、その著書「司法の崩壊」(PHP研究所)の中で、こう書いています。つまり、日本の法曹界が目指す「法化社会」とは、実は前記したように大衆が法という「約束事」を守る社会とは別物ではないのか、というのです。

     では、何か。それは、「約束事がたくさんある社会」だというのです。

     「社会の約束事が増加し、細分化が進んでいけばいくほど、『約束事が約束事を生む』世の中になっていく。なぜなら、たとえばある違反行為を裁くうえで約束A、B、Cを適用させようとしたとき、それぞれどんな場合に適用するかを規定する、さらに細分化された約束事が必要になるからだ」
     「そのため、『約束事が増加し、細分化が進んだ社会』では、国民のそれぞれにとって、その約束事に足をとられないように、その約束事を熟知する専門家から法的なアドバイスを受けることが必要になるのであり、そこでは法曹の存在がより重要になってくる」

     つまり、これが「法化社会」という「弁護士をはじめとする法曹の仕事が増える社会」だというわけです。もちろん、約束事の増加と細分化は、国民の自由と引き換えに進行します。

     これはどう考えるべきでしょうか。前記したような、あるかどうか疑わしい大量の泣寝入りと不正解決を描き出すことと同様に、これは環境を作るという意味で、弁護士をはじめとする法曹の出番と仕事を作ることが目的化しているようにもとれます。

     「市民のための改革」といいながら、果たしてこのことを大衆が理解し、了解しているのか、それが問われるべきだと思います。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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