弁護士の文章って、どうなの?

     弁護士を含め、法律家が書く文章は、基本的にあまり良い評価を聞きません。「こういう文章ばかり、書いたり、読んだりしていると、文章はどんどん下手くそになる」と言う、記者の先輩もいました。もっとも、文学的な文章を書いている人の中には、「記者が書いている新聞体になれたら、文学的なものは書けなくなるぞ」なんて言う人もいましたが。

     それはともかく、なんで弁護士を含む法律家の文章は悪文とされるのでしょうか。

     いうまでもなく、文章というものは、基本的に読む人に伝わってなんぼ、です。要するに分かりにくい、伝わらない文章は、減点されてもしようがありません。法律家の文章が分かりにくいのは、そもそも難解な用語、言い回しが散りばめられていることもありますが、文章の一文が長い、ということにあります。

     これは、記者としても戒められることですが、なぜ、長い文章がだめかというと、主語と述語の関係をはじめ、どの言葉がどこにかかっているのか、分からなくなってくるからです。一度読んで、飲み込める文章ではなくなってくるわけです。

     だけども、弁護士の書く文章がこうなるには、歴とした理由があります。それは、いわば一文のなかで、防御しながら、攻撃するような文章だからです。

     弁護士が裁判所に提出する文書は、なんらかの事実を明らかにしたり、法律的な解釈を当てはめるために、何かを立証しようとするものです。そのために、例外や前提をあらかじめ盛り込んでいるのです。

     「○○である」とだけ言えば、「そうはいいきれないだろ」という相手の側の攻撃が想定される。そのために、あらかじめ「××はあったとしても」とか、「少なくとも△△については」とか、前提や限定をかけているのです。ある意味、法律家の頭では、これをやらなければ、不正確である、ということにもなるわけです。

     これをやると、もちろん文章は長くなります。飲み込みやすい文書ではないです。ただ、これはしようがない、とも思います。そもそも、法律家の文章は、さっと読んで理解してもらうことを目的としたものでないという方もいますが、その通りかもしません。

     前記のような法律家の文章を、短文で区切れば、今度は主語の重複を招きます。法律家の文章が、裁判というステージで使われる以上、そこでの機能性と目的を重視すべきだとは思います。

     また、実際に優秀な弁護士の文章をみると、当事者がおかれている状況をよくくんで、遺漏のない表現をしているものに出会います。そこでは、一方で、素人考えでは、あれもこれもになりがちな事柄を、当該裁判での争点、立証したいことに合わせて的確に取捨しています。これは、ある種の訓練をした人間でないとできない、と感心することもあります。

     もっとも、裁判員制度の登場で、状況が変わってきました。法律のプロが裁判のステージで分かれば、良いという話ではなくなってきたからてす。判決文を含めて、裁判所をはじめ、検察庁、弁護士会それぞれで前記したような難解な用語、言い回しを改める方向になってきています。

     どんな世界にも専門用語はありますが、判決文のなかには「けだし」とか「なかんずく」とか、「しかるに」とか、「首肯せしめる」とか、およそ現代人が使わない古めかしい言葉が登場していました。法律の条文や、これまでの判決との整合をとっているとすれば、どこかで変えなければ、えんえんと続きます。

     法律家が裁判以外で、ちょっと文学的な文章を書いていたりすると、かつては「『何人も 見る権利あり 今日の月』(無粋の典型といわれる一句。かの伝説の刑事弁護士、花井卓蔵の作と言われる。名吟という人もいる)のクチさ」なんて言われて笑われていたものです。

     でも、いまやそんな決めつけはいけません。ブログなどを拝見していても、いいセンスしているなあ、という文章に出会います。読み手を意識して、どう伝えるか、どう伝わるかを考えるほど、文章はよくなってくるように思います。

     そういう意味では、どうとられるかを一顧だにせず、「月を見ている俺は法律家だけど、文句あるか」と言っているようにも読めてしまう前記一句は、やっぱり無粋といわれてもしょうがないかもしれません。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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