弁護士任官と法曹一元の距離

     弁護士から裁判官になる「弁護士任官」というテーマは、実は法曹界では、長くさまざまな受け止め方がされてきました。それは大きくくくれば、次の三種類になると思います。

     一つは弁護士任官を法曹一元の「理念」から、「結構なもの」としながらも、弁護士側の実績から冷やかに評価し、大量任官の未来に懐疑的な見方。もう一つは、弁護士任官推進を法曹一元への実績づくりの場として、前進的にとらえようとする見方。そして、もう一つは、弁護士任官という形で、法曹一元への道はすげかえられ、官僚司法は温存されるという見方です。

     基本的には、一番目の懐疑派は主に在朝法曹(裁判官、検察官)に多く、二番目の前進的評価は日弁連執行部をはじめ、一応、弁護士会の主導層のとらえかたといっていいと思います。

     この二つのとらえ方は全く反対の立場のようで、実はある共通認識に立っています。一つは弁護士任官を裁判官の「給源の多様化」の一形態としてみている点。もう一つは、それは任官を支える弁護士側の実績にかかっているととらえている点です。

     懐疑派の「実績次第」という冷ややかなとらえ方は、同次元でとらえている前進的評価派にとっての当然のハードルです。さらに、二つは今回の「改革」についていえば、同じ「教典」に基づいた共通認識に立っているともいえます。いうまでもなく、その「教典」とは「裁判官制度の改革」の一つとして、弁護士任官を位置付けた司法制度改革審議会最終意見書です。

     もっとも、一番目と三番目の見方は、結果においては同じことですが、その受け止め方が違うという言い方ができます。「出来るわけない」とタカをくくっているか、それに「のせられるな」といっているかの違いのように思えます。

     なぜ、弁護士が裁判所に入っていくべきなのか――これは、長く弁護士界では、前記法曹一元の理念の中で語られてきたことでした。すなわち、それは司法官僚制度の弊害に対し、弁護士の在野性(非官僚制)と人権擁護の経験の有効性、あるいは弁護士経験の優越性を前提とし、それが弁護士が任官することの最大の根拠として語られてきました。

     逆に言えば、法曹一元論否定の最大の根拠も、この弁護士経験の優越性の否定にあったといってもいいと思います。1964年臨時司法制度調査会意見書には法曹一元反対派の「弁護士経験の利点」に対するこんな評価が出てきます。

     「当事者の立場に立って物を考える能力は弁護士であるからすぐれ、キャリアであるから劣るというものではない」

     弁護士の優越性を否定する言葉が並び、果ては、「法曹一元論のあるものが裁判官の給源を実務弁護士以外に拡大しようとしていることは矛盾」とまで、揚げ足をとられています。給源の「多様化」のなかで法曹一元をとらえる方法は、ここでは弁護士側主張の一元論の根拠性を否定する論拠だったことは注目できます。

     さて、日弁連機関誌「自由と正義」8月号が掲載した日弁連の「改革」提言の到達点と課題を明らかにすることを狙いとした特集「司法制度改革をめぐる今日的課題」では、弁護士任官の実績にも言及しています。

     それによると、1992年から2001年までの10年間に47人だった弁護士任官者数はその後も2003年の10人を最大にあとは、一貫して一ケタ台で、2004年の8人のほかは2005年から2009年まで4人から6人の間で推移し、2010年には1人まで落ち込んでいます。

     この間、2004年から非常勤裁判官制度が導入されましたが、こちらもこれまでの最大で年間58人、2010年までの7年間の累計で286人という結果が出ています。

     法曹一元への転換を掲げ、「現段階でも実現されるべき制度改革や運用の改善」として任官推進や非常勤裁判官制度の導入を提言していた日弁連でしたが、この任官者数の少なさについて、この特集のなかでも、率直に「課題は達成されていない」として、「非常勤」から「常勤」への転換や、多数の判事補と検事に弁護士の経験させるため、その義務化を視野に入れた弁護士職務経験制度の拡充を目指すとしています。

     弁護士任官を法曹一元の「一里塚」と言う弁護士がいましたが、この社会は本当に長い法曹一元への道程にいまもあるのでしょうか。弁護士職務の優越性を社会はどのように評価しているのでしょうか。

     臨司意見書から半世紀近くを経ても、依然として、冒頭の三つの見方が、変わらずに存在し、それぞれが成り立つように描かれる現状を見ると、そんな考えが頭をよぎります。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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