法科大学院制度選択の事情と思惑

     司法研修所を中心とした法曹養成の在り方を長く議論してきた法曹界が、現在の法科大学院制度の方向へ、最初に舵を切らなければならなくなった第一の決定的理由は、数の問題にあったといわれています。

     法曹人口の大幅増員が決定的となったことで、財政的にも受け入れ態勢としてもキャパシティの問題として司法研修所教育を見直さなければならなくなったということです。法曹界も前記議論の切り直しを迫られることになったわけです。

     1999年度に司法試験合格者を750人から1000人に増員するに際し、修習期間にメスが入れられ、それまでの2年から1年半に短縮されたことも、そうした情勢変化の現れとされています。

     ただ、この時、司法研修所に代わる新たな法曹養成機関ということを考えるうえで、実は比較制度論的には二つの選択肢があり得たことを、広渡清吾・東京大学名誉教授が2000年に発表された論文の中で書かれています(「法曹養成の公共性と法科大学院」)

     一つは、大学におけるプロフェッション教育として法曹養成を行うアメリカ型。もう一つは、法曹人口増の大部分が弁護士増であることを踏まえ、統一的法曹養成を廃止して、司法研修所による修習を裁判官と検察官に限定し、弁護士養成を同業者養成として弁護士会に委ねるフランス型。ちなみにドイツでは、司法試験合格後2年間の統一司法修習を行うでしたが、修習生の急増に直面して運用が困難になり、修習制度を廃止し、大学法学部の履修期間を延長し、そこに実務教育を導入するという改革案が生じた、とされています。

     しかし、諸外国との比較制度論としてあり得たこの選択肢が、実はわが国では現実問題としてはあり得なかった事情についても、広渡氏の論文は書かれていました。

     「実際には、日弁連が法曹一元を法曹人口の大幅増員とセットにして要求しており、そこでは統一的法曹養成が大前提であるから、後者の方法は受容される可能性がなかった。そして、逆に前者の方法は、少子化時代の大学の役割を模索する文部省にとって渡りに船のアイディアであり、1998年10月に公表された大学審議会答申(『21世紀の大学像と今後の改革方策について-競争的環境の中で個性が輝く大学』)は高度職業人養成のための専門大学院の考え方を提案し、その事例として『ロースクール』に言及した」

     大学法学部にとっては、「初発において外から急き立てられる改革」だった法科大学院構想は、「近代日本で初めて大学の法学教育のなかに法曹養成機能を位置づけ」、「予備校とのダブルスクール現象という不面目な事態を解消」し、「司法改革に協力する」という大義を持つものになっていた、ともしています。

     ここには、新たな法曹養成機関として法科大学院が選択される当初の、弁護士会、文部省、大学のそれぞれの受け止め方が端的に現れています。それぞれの立場からの違う思惑が絡みながら、法科大学院が選ばれたようにとれます。

     とりわけ、フランス型の同業者による弁護士養成の道がまず選択肢から外れた事情が、弁護士会の法曹一元という理念につながる統一的法曹養成にあったという点は、注目できます。弁護士会自身が、当時、分離した法曹養成を現実的に担うことが果たしてできたのか、そこには司法研修所同様の限界があったかもしれませんが、少なくとも弁護士会が目指していた法曹一元、統一修習の理念が二つの選択肢のうち、法科大学院に舵を切らせることにつながっている、ということです。

     法曹養成を大学運営にゆだね、現実的にはその内容的にはバラつきが出ることも予想された法科大学院であっても、弁護士会が三者としての統一にこだわらざるを得なかった事情をここにみることができます。同業者養成という形で弁護士が分離することは、法曹一元の断念であるばかりか、国費によって養成されてきたという弁護士の公的養成の位置付けを、自ら放棄する、あり得ないものとして、弁護士がとらえていたとしても不思議ではない状況だったようにも思います。

     「弁護士を弁護士が育てる」という発想を、弁護士たちが持っていなかったわけでなく、むしろ強く持っている人々がいたことは、法科大学院構想のなかで、それを実現しようとした大宮法科大学院大学設立の中にもみることができます(「『法科大学院』を目指した弁護士たち」)。

     法曹一元は遠のき、大宮法科大学院大学の挫折が伝えられ、「給費制」が消えようとしている今、こうした未来を予想できたとすれば、弁護士会はどういう選択をしていたのか--つい、そんなことを考えてしまいます。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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