法曹養成論議の気になるシーン

     「法曹の養成に関するフォーラム」第4回会議の議事録を見ると、日弁連・弁護士側が、委員である井上正仁・東京大学大学院法学政治研究科教授からまるで言質をとるように詰め寄られるシーンが二カ所登場します。

     一つ目は、オブザーバーの川上明彦・日本弁護士連合会法曹養成検討会議委員が、フォーラム事務局が実施した奨学金調査では、過半数の回答者が奨学金を受給していないとの結果に対して、「これは法科大学院の高額な学費と生活費を奨学金なしで賄える階層が新法曹の過半数に達しているということを意味し」、「既に経済的に貧しい階層は、法律家になれないという懸念が現実のものとなりつつある」という認識を示したのに対するものです。井上委員はその根拠について詰め寄ります。

     「一定以上の資力のある人しか法科大学院に来れていないと言われたと伺ったのですけれども、どうも私どもが日々学生と接触していて受ける感じとはかなりかけ離れているものですから」

     「申し上げたような事態が現実だと理解」していると答える川上オブザーバーに井上委員は、数字の解釈か、根拠があるのかを質し、資料をもって回答するとした同オブザーバーにこうたたみかけます。

     「それはちょっと無責任ではないですか。今,読み上げておっしゃったのは、原稿があってそれをもとに発言されていると思うのですが、その原稿を作成されたときに、それなりの根拠をもってそのように書かれ、ここは公の場であり、日弁連を代表されてそういう発言をされたわけですから、やはりそれなりの根拠を示していただかないといけないのではないでしょうか。特にほかに根拠はなくて、その数字をそういうふうに解釈されただけということなら、それはそれで結構なんですけれども、それだとするとしかし、奨学金を受給している人も結構多いのに、その人たちも資力は十分ある。あるいは借り入れれば来れる程度の資力はあると、こういうことになると思うのですが、それが実態に合っているのかどうか」

     このあと、川上オブザーバーは、一言「私の解釈です」とだけ答えます。しかし、ここまで詰め寄る井上委員にも断定する根拠があるわけではありません。「学生と接触」してきた印象をもとに、同オブザーバーの見解について彼の「解釈」という一言を引き出すまで追い込んでいます。

     もう一つは、法曹養成全体を議論してから「給費制」問題の結論を出すべきという意見に井上委員はこう言いました。

     「全体を議論しないとこの部分が決められないという関係に本当にあるのかどうか。全体の議論をすれば,弁護士会がおっしゃっているような給費制維持ということにつながり得るのかですね」
     「例えば,今の新しい法曹養成制度を全部撤廃して元に戻す、人数も元に戻すから、給費制も元どおりだと、こういうことならまだ分からなくもないのですけれども、このフォーラムも司法制度改革審議会の意見書の趣旨を踏まえて検討を行うということになっていますので、そこまでのことをフォーラムは求められているのではないと理解していますし、弁護士会の方もそこまで恐ろしいことをお考えなのではなくて、あくまで新しい法曹養成制度を前提にしながら、どううまくやっていくためにどうすればよいのか、そういう御議論をなさっているのだと思うのです」

     議事録の文字からも、嫌みな響きが伝わってくる発言です。新法曹養成制度を全面的に見直し、給費制も維持なんて「恐ろしいこと」をゆめゆめお考えではないでしょうな、という言い方に聞こえます。

     委員である丸島俊介弁護士は、「法曹養成制度を全部ひっくり返して元へ戻せなどという意味で、法曹養成制度全体をこの機会に検討すべきだという議論をしているのではなく」、司法制度改革審議会が提案した制度運営がなされず、合格3000人未達成を含めた新たな制度移行の前提が作られていない現状の問題と志願者減少といった現象から適否を判断すべきということで丁寧な議論を求めている趣旨を説明しました。これに対する井上委員の回答はありませんでした。

     やがて同フォーラムは、日弁連も参加したこの国の有識者たちの議論の結果として、「結論」を出します。それが新しい法曹養成制度全体を、後戻りできないものと決めつけず、現実を直視したうえで議論した「結論」であったのかは、こうした会議でのやりとりを含めて評価されなければなりません。


    ただいま、「『給費制』廃止」「法曹の養成に関するフォーラム」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
    http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信開始!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR