弁護士会は一枚岩ではない

     弁護士も弁護士会も、いろいろな司法の政策に対して、常に同じ統一した考えを持っているわけではありません。そういう意味では、一枚岩ではない、といってしまっていいと思います。

     この世界を見ていると、それは当然のことでもあります。弁護士は、弁護士会に登録し、全員が日本弁護士連合会の会員になることを強制されていますが、いかにそうであっても、弁護士個々人は、いろいろな考えを持っています。

     かつて日弁連や弁護士会との意見交換をしていた法務省や最高裁など官側の担当者は、「弁護士会の意思決定は遅すぎる」と批判したものでしたが、その度に弁護士会側は「多種多様な意見を持つ組織であるからこそ、重層的な意思決定機関を持ち、それがゆえに時間がかかる」と弁明したものでした。

     弁護士会は、もともとまとまるための労力を必要とした組織だったのです。

     ところが、市民の方の話を聞いてみると、ことによると弁護士会が一枚岩でないことを市民はあまり理解していないのではないか、と思うことがあります。

     この度の裁判員制度についても、そうでした。

     「弁護士や弁護士会が100%推進している制度ではないのですか」

     こんな風に尋ねられることがよくあります。あるいは、推進派の方々にとって、こうした理解は望ましいことかもしれません。

     だけども、これは市民側には、必ずしも望ましいことではありません。現実は弁護士の中にも、この制度の問題性を指摘し、反対している人がもともと沢山いましたし、今もいます。そのことについては、また回を改めますが、こういうと、市民の方々は一様に、ちょっと驚いた顔をします。

     「専門家がそんなに反対している制度だったんですか」

     この現実は、大マスコミに大きな責任があります。裁判員制度スタートありき、だった大マスコミは、法律実務家を含めた専門家のいう制度の問題性を分かりやすく伝え、「専門家がそんなに反対している制度」であることを国民に提示するなどというヤブヘビ報道はしなかったからです。

     司法とは性格が異なるとはいえ、同じように国民の生命・身体にかかわる医療や薬品の世界だったらどうでしょうか。一部効果が認められるものの、相当数の専門家が待ったをかけている医療法や新薬について、とりあえず許可して、結果を見て改善などという方針がとられることがあるでしょうか。まして、その現実を伝えないなんてことも、当然、許されることではありません。

     司法における「実験」は、医療のような取り返しのつかない実害は生まないと、裁判員制度推進派の専門家も大マスコミも考えていることになります。

     ちなみに法曹人口の増員についても、市民は弁護士会が一枚岩ではないことをよく知らないようです。こちらの方は、多くの市民の方々の関心の外ではありますが、かえってくる言葉は、どちらかというと、当然、弁護士は利権のために一枚岩で増員に反対だろう、という見方です。

     こちらのマスコミのアンフェアな報道の責任は、裁判員制度報道を歓迎した弁護士の方々もよしとはできないはずです。

     法律専門家に多種多様な意見があるのを伝えること自体が、実は市民への判断材料の提供であることを忘れてはいけないと思います。一枚岩でないことが、ちゃんと伝えられることも、ある意味、市民にとって、重要な意味をもってくることなのです。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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