「焚きつけられる」という想定と責任

     このまま弁護士の激増政策が続き、その競争が激化した場合、弁護士と恒常的にお付き合いがない、たまたま弁護士を依頼しなければならない市民は、具体的にどんな危険にさらされるのでしょうか。逆に言えば、どういうことを特に注意することをより求められてくるのでしょうか。

     これまでも書いてきたように、現在の弁護士の経済的な状況をみれば、いわゆる弁護士を求められる必要性がはっきりと現れている有償のニーズが、その増員され出している数に比して、豊富に存在しているわけではないことは明らかです。

     ただ、弁護士会のなかでも、増員方向への賛否で分かれるのは、ここからです。つまり、端的に言えば、そうした顕在的ニーズはないかもしれないが、潜在的ニーズはあるという見方と、それもそれほどはないという見方です。

     前者の見方には、以前に紹介した日弁連が転職ガイドブックで取り上げていた企業内弁護士や任期付公務員、法テラス常勤スタッフ弁護士など、まだ弁護士が十分に目を向けていない「受け皿」を選択肢に加えるという考え方があります。ただ、キャパシティの意味で、それらが現在のところ、将来的にどの規模の「受け皿」として期待していいのかは、実はだれも断言できず、これからの実績次第という面もあります。

     したがって、前者の潜在的ニーズを強調する見方は、これだけではなく、実はもっと日常的な市民生活のなかで、泣寝入りも含めて弁護士に頼むべき案件が眠り、そこに弁護士がおカネをとれるニーズ、逆に言えば、大衆がおカネを出す用意があるニーズが存在しているという描き方が、基本にあるのは明らかです。ただ、弁護士はそこにたどりついていないのだと。たどりつく努力をしなさいと。

     そうなると、問題はその努力ということになります。「掘り起こし」という言葉が使われるときがありますが、一つ間違えれば、それは紛争の「焚きつけ」にもなり、さらにたちが悪いことに、依頼者市民からみて、時にその区別が付かないからです。

     2004年に、弁護士倫理に変わるものとして、強制力のある会規として制定された「弁護士職務基本規程」の29条に、「受任」という弁護士と依頼者市民がつながることになる重要な局面についての規定があります。

     第29条 弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た情報に基づき、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について、適切な説明をしなければならない。
     2 弁護士は、事件について、依頼者に有利な結果となることを請け合い、又は保証してはならない。
     3 弁護士は、依頼者の期待する結果が得られる見込みがないにもかかわらず、その見込みがあるように装って事件を受任してはならない。

     実は、依頼者市民側にとって、「焚きつけ」と見分けがつかなくなる弁護士との接触では、およそここに書かれている禁止事項が現実問題として、見分けられるのかが求められるといってもいいように思います。事件の見通しとして説明されていることが果たして正しいものなのか、見通しもないことを「有利な結果」になると請け合い、保証していないか、そして依頼者の期待を見込みがないのに見込みがあるように装い利用していないか――。

     逆にいえば、競争が激化するなかで、心得違いをする弁護士がとる行動は、もちろんいかに巧妙に、それができるかにかかってきていてもおかしくありません。

     仮に、市民がこれから身を守ろうとするならば、複数の弁護士に所見を求めるセカンド・オピニオンを念頭におくということも考えられますし、初めから同時複数の弁護士に並行して相談を持ちかけ、対応の差をみるという手段まで考えなければならないかもしれません。しかし、現実問題としてそうしたことは依頼者側の負担であり、そもそもその環境が整ったとしても、それがどこまで依頼者側の取捨の手段として機能し、不当な紛争の「焚きつけ」を排除できるかは、今のところ何ともいえません。

     基本的には、弁護士側の責任としての、あるいは資格制度としての「質」の問題として解決していくべきだと思います。以前書きましたが、既に法律家として無理な主張や負けることが分かっていても、ファイティングポーズだけで、依頼者の気持ちをつないで、突っ込んでいく弁護士が登場していることがいわれています(「『ポーズ』弁護士増加の嫌な兆候」)。こうした弁護士は、適切な事件の見通しを依頼者に示さず、有利な結果を請け合い、見込みもないのにファイティングポーズで依頼者の期待をつないでいる可能性があります。

     弁護士から見ても「質が低い」という評価につながっている、こうした弁護士が依頼者市民の前に登場してくるのが、「質」の保証なき増員がもたらす「競争」時代の現実であることを、大衆は分かっておかなくてはなりません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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