「弁護過誤訴訟」への期待と不安

     5年前に、日本経済新聞が掲載したインタビュー記事(2006年7月24日付け朝刊)が、当時話題になりました。登場しているのは、科学技術文明研究所長(当時)の米本昌平氏です。

     「弁護過誤訴訟のすすめ」

     これを読んだときの第一の感想は、およそこのタイトルからイメージされるような穏やかな内容ではないということでした。それは、現在の弁護士の在り方に対するストレートな批判だったからでした。

     医師、聖職者などともに特別の権限が与えられてきた弁護士の職業モデルが、商業主義化のなかで崩れてきているのに対し、歯止めが必要――彼の基本的な認識は、こういったところにありました。

     さらに、彼が強調するのは、身内意識のような体質的問題でした。「医療ミスに対しては裁判も多く、これを防ごうと医者の相互監視も働きつつある」のに、「弁護活動で何らかのミスをして裁判で負けても弁護士はその責任を裁判官のせいにして、・・・・どうも弁護士同士ではお互いのサービス内容の批判をしない」と。

     したがって、弁護過誤訴訟がもっと増えれば、こうした体質が変わり、過誤がなくなっていく、というもののようでした。

     商業主義化の中で職業倫理が崩れつつあるとする点や、弁護士同士が互いに業務の在り方を率直に批判し合う体質がない点については、米本氏の指摘を真摯に受け止めるべきところもあるようには思います。

     だが、おそらくこのインタビューで、もっとも問題となるのは、この記事がメインの見出しにとっている点です。

     「裁判の負け なぜ問われぬ」

     裁判の勝ち負けを「弁護過誤」という観点から問うべき、というメッセージです。これについては、二つの面で考えなければいけないことがあります。

     一つは、前記のように「何らかのミス」と注釈をしても、何がミスか分かりにくいこともあるということです。裁判に負けたことに結び付けて、戦術や手法の選択までかなり広く「ミス」として訴訟で問う風潮が生まれないか、ということです。あるいは依頼者を説得した案件で、結果として負ければ、それも直ちに「過誤」の容疑がかけられるかもしれません。

     そして、もう一つはそうした風潮になれば、弁護士側が負ける見通しの案件を敬遠したり、また法的な戦術において、法律家として最も適切な判断を示さず、依頼者の判断に過度に依存する傾向が生まれかねない、ということです。医療の分野で、医療過誤の賠償責任や刑事責任の追及のリスクを回避するためにとられるとされる診療忌避、「防衛医療」「委縮医療」などといわれるものと同様の結果です。

     ただ、一方で、弁護士の増員と不祥事の増加は、「弁護過誤訴訟」が登場する社会的な環境をどんどん作りつつあるように思います。現実に既に行われている裁判では、弁護士を相手にした訴訟の代理人になることを弁護士が敬遠する傾向があることもあって、本人訴訟にならざるを得ない状況もあるようですが、米国などにあるような「弁護過誤専門弁護士」の必要性がささやかれ出していることも事実です。今後、期待感を背負う存在になることも考えられます。

     もっとも「弁護過誤専門弁護士」こそ、一つ間違えれば、「負け」の手法があったとして依頼者を焚きつけ、紛争を作りだし、弁護士が弁護士の粗探しをして儲ける存在にもなりかねません。

     紛争そのものについては、以前にも書きましたが、期限徒過による敗訴などの弁護士のミスには、「弁護士賠償責任保険」というものがあり、さらにそうしたものの充実化が、弁護士・依頼者双方に重要になってくるとは思います(「弁護士よる『二次被害』という視点」)。

     問われるべき弁護士の責任は、もちろんきっちり問われていいと思いますし、それはほとんどの弁護士に異論はないと思います。こうした問題に弁護士が背を向ければ、ただちに身内のかばい合い体質といわれる状況もあります。

     ただ、「弁護過誤訴訟のすすめ」の前に、弁護士に根本的な問題として問われていいのは、やはり、ここでも能力を含む「質」であり、こうした問題そのものを社会に惹起しないための努力です。また、「訴訟化」しないと解決しない風潮、そのビジネス化、さらにはそれによる弁護士の委縮、いずれをとっても、社会にとって望ましいとは思えません。弁護士が社会のあらゆる場面に登場するような形の「訴訟社会化」自体が、すべて「勝ち負け」の結果を弁護士に転嫁する社会が登場する芽をもっていることも、そろそろ考えていいのかもしれません。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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