「資格」としての役割と信頼という視点

     たまたま今から20年くらい前に発行された弁護士が書いた市民向けの「弁護士入門書」、といっても、弁護士になるためのものではなく、弁護士の「利用法入門書」ですが、それを見ていたら、こんな記述がありました。

     「弁護士は、まず、依頼人を裏切るなどの職業倫理に反することはしません」

     今、新しく出版された本にこう書かれていたとして、それを手に取った市民のなかには、この下りに「そんなことあるかー」と突っ込みを入れてしまう人がいるかもしれません。

     いつの時代にも、依頼者にとって問題のある、問題を起こす弁護士はいましたが、こと「倫理」ということについて言えば、社会全体のイメージからすれば、ここ20年でさらに低下しているのではないかと、率直に思います。残念なことですが、弁護士の不祥事や犯罪行為が、「弁護士」であることとの意外性で語られる度合いは低くなり、もはや大衆が、そんな驚きをもって受け入れるテーマではなくなりつつあると思います。

     だから、今、こうした入門書を書こうとする弁護士が、果たして前記したような表現をするだろうか、あるいは、そうした予想される突っ込みの前に、こうした表現にはならないのではないか、とも、つい思ってしまいます。

     もっとも、前記「入門書」で「まず、しない」と断定した著者は、このなかで単に弁護士の倫理意識の高さを強調したわけではありませんでした。

     「弁護士だって人の子ですから、魔がさすことが絶対にないとは断言できません」としたうえで、こう書いています。

     「(悪事は)いずれ、ばれるかもしれません。ばれたときの罰がすごい。弁護士の廃業にとどまらず、起訴されたら、厳罰が待っています。法職にある者の刑事罰は、一般に、そうでない人の刑事罰よりすっと重いのが通例だからです。そう考えると、とても割りが合いません。人間、多少の理性があれば、割りの合わない犯罪行為には走らないものです」

     つまり、弁護士の懲戒制度が抑止力として機能しているという話です。弁護士の懲戒歴の公開について書きましたが(「注目・活用される『懲戒処分歴』」)、その意味では、それがいかに当該弁護士にとって重い十字架になっても、そうであるほどに、他の弁護士にとっても、抑止につながるようにとれます。

     20年前の弁護士が、みんなこの著者のような認識かどうかは分かりませんが、ただ、少なくとも今よりもはるかにこうした弁護士会の懲戒制度の効果と、同業者の行動を「まず、しない」と断言できる状況が、弁護士にはあったとは思うのです。

     あえて前記著者の言に沿わせて、今の弁護士の不祥事や犯罪行為を眺めてみると、全く違う弁護士像が浮かび上がります。違法行為に手を染める大部分の人間は、いうまでもなく、「割りが合わない」という次元のカセはありません。つまり、弁護士という法や正義を口にする人間にして、全くそこは彼らと同じ顔をし、もはや「多少の理性」も持ち合わせない姿の人間であるからです。

     少なくとも、その点では抑止力のなさ、もしくは限界がはっきりしている今、残念ながら、著者のような見方が説得力をもっていないことになってしまいます。

     ただ、この本は非常に大事なことを教えてくれています。弁護士が社会に向き合う時、この著者が言った「まず、しない」という状況、そう断言できる状況が、どれだけ大衆に安心感を与え、弁護士への根本的な信頼につながっているか、ということです。この当たり前のことが、今、崩れてしまっていると思うのです。

     そのためには、どうすればいいか。懲戒の抑止力を重くみる人間は、さらに重く、「割りの合わない」環境を作れ、というかもしれません。ただ、それがどんなものであれば、本当に効果があるのか、その見通しすら立っている状況にはありません。

     少なくとも、「まず、しない」と、その最低限の「質」を断言できる状況こそが資格への国民の信頼の基礎だという認識のもと、それを脅かす政策、それを一義的に考えていない政策を見直していく必要があるように思えるのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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