大量「泣寝入り社会」という描き方のツケ

     「訴訟社会」という言葉が、何事につけても紛争を裁判によって解決する社会を意味するのであるならば、今回の「改革」が目指しているとされている「法の支配」の名の下に、社会の隅々にそれがいきわたり、そこに弁護士はしめ法曹が登場する社会は、同じ方向を向いていることは、以前書きました( 「『訴訟社会』と同じ顔の未来」)。

     それゆえに「改革」を肯定的にみる人を含めて、その意味で区別化を図りたい人は、「過剰な訴訟社会」とか「アメリカのような訴訟社会」といった表現も使います。実際には「訴訟社会」という用語自体はネガティブに使われ、「過剰な」「アメリカのような」という意味を包含している場合がほとんどなのですが、前記意見においては、あたかも必要とされる「訴訟社会」が存在するようなニュアンスにもなります。

     とりわけ、日本の話となると、米国にはある懲罰的賠償など制度や、訴訟沙汰に対する国民性に関する両国の違いを理由に、日本は米国のような訴訟社会にはならない、ということも言われます(「『訴訟社会』を支える弁護士の本当の姿」)。

     ただ、逆に「改革」と絡んで、必要とされる「訴訟社会」の前提として、何が描かれているかを考えれば、それは「二割司法」という言葉が象徴するような大量な泣寝入りや不正解決です。つまり、日本では過剰に司法に頼るどころか、頼らなさすぎる現状があるということです。

     本来は弁護士に相談し、場合によっては裁判に持ち込むことが望ましいことが沢山あるのに、その環境が整っておらず、市民自身も覚醒していないために、泣寝入りや不正解決が、この国にははびこっている。だから、「訴訟社会」化は、この国にとってはむしろ望ましく、ちょっとやそっとでは「過剰に」なることも、「アメリカのよう」になることも心配する必要はない、という描き方になります。

     さて、ここで問題があります。もし、ここで前提としている大量の泣寝入りや不正解決がこの国存在しているという見方が正しくなかった場合はどうなるのでしょうか。もちろん、そうしたケースはないわけではないでしょう。ただ、そのとらえ方として、それが大量に存在し、それが存在することを前提に、大量に弁護士を増やし、結果として、それがなかった場合どうなるのでしょうか。

     当然、大量の弁護士は生き残りをかけて、ニーズを探ることになると思います。彼らはもちろんあくまで「潜在的ニーズ」といい、本来ある「泣寝入り」や「不正解決」事案の「掘り起こし」というでしょうが、そこは「焚きつけ」と区別がつかない、少なくとも本来的に大衆が期待していない領域について喚起することを妨げることはできません。

     それが、この社会に何を生むのか。今、懸念されはじめているのは、「クレーマー化」です。「モンスターペアレント」に代表されるような、言い掛かりを含め、社会のなかに存在する「不当」な要求を、裁判や法的手続きにのせられるという欲求を覚醒・喚起させる恐れです。

     現にそこに介入する弁護士が登場し始めています(「『ポーズ』弁護士増加の嫌な兆候」「弁護士が『モンスター』に見える時」)。同業者も信じられない主張を掲げてくる彼らは、もはやカネのためだけに依頼者の気持ちをつないでいる、「法律家」のなれの果ての姿と言わざるを得ません。

     「訴訟社会」とは、自己責任が徹底化されると同時に、むしろ法的手段や弁護士の介入がなければ、紛争が解決しにくくなる社会でもあります。弁護士の紛争喚起と、「質」の悪い弁護士の介入が、それを支えます。勝手に「泣寝入り」社会を描き、勝手にそれを前提として弁護士の数を増やした結果、生まれた「クレーマー」社会のツケだけが、大衆に回って来る。

     そんなものを求めた覚えはない、ということだけは、国民ははっきりさせておかなければなりません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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