「国民の理解」が登場する場面

     議論の中で、「国民の理解」という言葉はよく登場します。国民に理解が得られる、もしくは得られないということを前提に議論を進めようとするものです。もちろん、案件にもよりますが、およそ制度の是非などを論じる居面で、この方法がとられることは、ある意味、当然で、むしろそうしたことを度外視した議論が問題とされてもおかしくありません。

     ただ、この言葉が出てきた場合、そこは特別な注意を払って、この主張を聞く必要があると思っています。そのポイントは大きく二つです。

     一つは、「国民の理解」が、それを言う当事者側の都合で言われていないかということです。特別に裏付けとなる根拠が示されている場合は、もちろんその評価にかかわりますが、そうでない多くの場合、いわば、国民の意思の忖度が行われていることになります。

     およそ、他人の心を推し測る忖度という行為は、自分の都合で、他人の心を推し測る場合があります。さも、国民が背を向けるように言いたいあまり、また、国民が受けいれてくれるはず、ということを強調したいあまり、使われるこの言葉は、ときにこの言葉が補強してくれるほどには「国民」の意思を反映したことにならない可能性があるということです。

     もう一つは、なんらかの根拠が示されたり、示されなくても、なるほどと思える実際の国民の反応が予想されたとしても、その反応が前提となる現状理解に基づくものかどうかということです。

     これは国民自身にではなく、国民がフェアに判断するための情報を提供していないマスコミに原因があります。それは制度の成立、もしくは不成立に不利
    な情報を提供しない側に、協力している姿勢にとれる場合もあります。この場合も、また、「国民の理解」そのものが、そうした前提が変わることによって、成立・不成立が逆になる可能性もあるというわけです。

     司法改革をめぐる議論でも、「国民の理解」という言葉が度々登場してきたように思います。時に制度推進を後押しするために、時に押しとどめるために、この言葉は使われ、場合によっては、言われた側ではそれをハードル、課題として受け止めた人もいれば、民意離反を脅威として押し黙った人もいたと思います。

     しかし、今、改めて考えてみても、前記二つのポイントは本当に十分検討され、それをクリアしたのか、ということを考えてしまうのです。

     最近の「給費制」をめぐる議論でも、この言葉は登場していました。

     「司法制度改革後においても司法修習の重要性に変わりはなく、修習制度を国費で運営することや、修習に専念し得る環境を整えることは必要であるが、その方法として給費制を維持することについて国民の理解を得ることはもはや困難である」
     「実際、給費制が導入された戦後直後は、1期当たりの修習生は200人台~300人台にすぎず、国民の理解も得やすかったと思われますが、7ページの資料4のとおり、司法試験合格者が増加しており、現在では2000人を超えているという状況」
    (「法曹の養成に関するフォーラム」第3回会議での後藤博・司法法制部長の発言)

     「給費制」の意義・影響が伝えられていることが前提として、この発言をとってしまって、本当によいのでしょうか。あえていえば、前段のいくつかの理解されるだろうと忖度している現実と、「給費制」をそこまで完全に切り離せるのか、そこに一つ目のポイントが引っかからないかどうか。まして、数が少なかったころはともかく、2000人ともなるとちょっとと、聞こえる話は、多分に言う側の思惑先行のようにとれます。

     それをいうならば、とにかく数を増やすことの「理解」、なにがなんでも法科大学院を維持し、そのために誰でも何回でもチャレンジできる資格ではなくしている現状への「理解」はどうなのか、ということも言いたくなります。

     民主主義社会で、「民意」は錦旗となり、時に制度推進をめぐり、議論の過程では、その争奪戦のような様相を呈することもあります。そうであればこそ、「やらせメール」のような「民意」の偽装が行われることにもなるわけです。そして、この「国民の理解」という言葉もまた、場合によっては「民意」偽装と同じ顔を持っているかもしれない、ということになります。よくよく注意して、かからなくてはいけません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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