何が「給費制」を消すのか

     「給費制」がなくすという選択は、経済的事情によるものか、それとも理念によるものなのか。ここは、はっきりさせておかねばならないように思います。つまり、経済的な環境が仮に整っていたとすれば、この制度はこれまで通り、続けられていた制度なのか、それとも、そもそも支給するという理念自体に無理があるという結論に達した、ということなのか、ということです。

     考え方によっては、前者ならば、豊かな時代ならば、あるいは問題にされることもなかったとか、あるいは改革の在り方次第では、違った結論になったはず、さらには、いずれ環境が整えば復活ということまでいわれてもおかしくはありません。

     一方、後者であるならば、当然に、これまでの政策そのものが間違っていたということにもなり得ますから、あるいは「反省」もしくは「責任」ということまでいわれるかもしれない。もし、時代の流れとともに、かつて存在していた制度の使命そのものがなくなったとか、理念自体を成り立たせる事情が変わったというとらえ方だとすれば、そこは明確にされていいはずです。

     これらは、仕分けされた事業をみる場合でも、共通のポイントだとは思います。議論のなかで、経済的な観点での問題が注目されながら、一度消えてしまったら「復活」はないと、おそらく多くの弁護士が思っている「給費制」はどうみるべきなのでしょうか。「貸与制」でできるならいいじゃないか、といくらいっても、あくまで負担ですから。 

     8月4日の「法曹の養成に関するフォーラム」第4回会議に提出された、これまでの議論を踏まえた「論点整理」のたたき台には、貸与制移行の趣旨を、次のようにまとめたところがあります。

     「①新たな財政負担を伴う司法制度改革の諸施策を進める上での合理的な国民負担(財政負担)を図る必要、②給費制創設当初と比較して司法修習生が大幅に増加、新たな法曹養成制度の整備に当たり司法修習生の増加に実効的に対応できる制度とする必要、③公務員ではなく公務にも従事しない者に国が給与を支給するのは異例,等の点」。

     ①は司法制度改革、つまりは法曹養成制度全般の諸施策を考えた時、国民の理解が得られる形での負担を考えねばならなくなっている、という前提に立っているように読めます。事情変更とも、「国民の理解」という点で理念的に「給費制」が弱いととらえたともとれます。

     ②は、事情変更の説明に当たります。ただ、司法修習の増員と新法曹養成制度の登場が、理念を維持できない理由ととれます。その意味では、この前提が違った場合にどうなっていたのか、という話になります。第3回会議では、「給費制が導入された戦後直後は、1期当たりの修習生は200人台~300人台にすぎず、国民の理解も得やすかったと思われますが、・・・・司法試験合格者が増加しており,現在では2000人を超えている」という発言が政府側からなされていますから、経済的な負担への「国民の理解」をここでも絡めているととれます。

     そして、③は完全に理念の否定です。そもそも理論的に無理があるのだと。ここについていえば、過去に制度が維持されてきたこと自体に疑問があったのだといっているようにもとれます。

     経済的な事情、今日的な事情変更をいいながらも、本来的に理念への疑問と、過去の理解があったかどうか、それを問うてないことは別にした、「国民的な理解」の困難さを挙げ、復活の芽はなく、「過去はともかく」消えて頂く制度として「給費制」を説明しているように読めます。

     さて、こうしたとらえ方について、弁護士会内から聞こえてくる声があります。

     一つは「給費制」は、「法科大学院」のために消えていくのではないか、という声です。①②のなかに込められている既定方針、優先方針の中心にあるのは、いうまでもなく法科大学院制度です。「国民の理解」といいますが、実はこの制度を守るために、「給費制」は消されるのではないか、と。志望者にとっておカネのかかる法科大学院というプロセスが、果たして「国民の理解」が得られているのか、さらには、そうした現実が横たわるならば、経済的には本当は法曹の卵たちにとって「給費制」の今日的意味は高まっているはず、という疑問も生みます。

     そして、もう一つ。それはあたかも弁護士が既得権益をいうように、この制度の維持を求めているかのような描き方が正しいのか、という声です。

     「弁護士にとっては、既得権益保護だけを考えるならば、給費制は廃止されたほうがありがたいです。法科大学院(LS)もあったほうがいいです。なぜかといえば、そうすることによって、弁護士という職業に至るためには多額の借金を背負わされることになる(修習時の貸与+LSの学費)ので、これらが経済的障壁となって、優秀な若者が弁護士を目指さなくなる=既存の弁護士にとっては楽だからです」(「福岡の家電弁護士 なにわ電気商会」)

     増員によって、若手弁護士があぶれている状態を実は歓迎している、一部経営弁護士の言葉を耳にします。理由は、ひとえに安く使え、交換がきく、と。法科大学院と「給費制」廃止・「貸与制」移行が参入障壁になれば、優秀な人材がやってこない環境を、本音ではそれこそ既得権益として、むしろ有り難いと思う弁護士もいる、という話です。もちろん弁護士会はこんな人ばかりではありません。しかし、既存の同業者も嘆きたくなるような、こうした弁護士が登場し始めているのは事実です。

     「給費制」廃止の向こうに広がるこうした光景は、この制度を永久に消し去ろうとしている人たちの「絵」には、意図的かそうでないかは別にしても、描き込まれていません。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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