法曹志望者と社会に望ましい形

     ツイッターで最近、ある弁護士のこんなつぶやきが流れました。

     「法曹志願者は、かつて、司法試験に合格できずにその道を諦めた。今は、就職できずに、その道を諦める。どちらが、社会的に、好ましい事象と言えるのだろうか?」

     面白い投げかけだと思いました。かつて日本一狭き門といわれた司法試験に、その先に夢見ていたことはさまざまであったとしても、多くの若者がチャレンジしてきました。合格していく同じ志望者たちを横目に、さらに勉強し、チャレンジを続ける。それでも、「合格」にたどりつけない人たちもいました。

     「諦め」という境地は、ある人にとっては、もはや経済的にも、就職にしても、人生をかけたチキンゲームのような境地の向こうにあったといってもいいかもしれません。それに対しては、いろいろなことを言う識者もいて、中には「はやく諦めさせるのが本人のため」という趣旨の発言もみられましたが、やはり個人の選択として、少なくとも「納得」に向かってやり尽くせる機会はあったといえます。

     かつては大学在学中に、2回司法試験にチャレンジできました。さらに就職条件については不安があっても、大学院に進んで、そこで勉強しながらチャレンジする人もいました。ある意味、「諦め」ということに関していえば、志望者にとって方向転換がそれなりにきく節目も作れました。

     なぜ、これらができたかといえば、いうまでもなく、それは法曹になる関門が、何度でもチャレンジでき、あくまでそれを受験者が自分の能力と見つめ合って選択できる一発試験の司法試験だったからです。

     それが変わってしまいました。「プロセス」として法科大学院に行かなくてはならなくなりました。授業料だけで年間100万円、その他生活費や教材を含めれば、修了までに1000万円、2000万円用意した方がという話。しかも、基本的に修了が受験条件なので、在学中チャレンジという形はできない。おカネがかかるだけに、志望者にはより引き返しにくい環境であることは間違いない。

     しかも、修了しても合格できるとは限らない。既に合格率は全体では3割を切っているし、そのうえ修了後5年以内3回に受験は制限され、何回でもチャレンジできるわけではない。

     さらに、その先に待っているのが、仮に弁護士になっても就職口がなかったり、就職ができても稼げることが保障されているわけではない現実。しかも、合格できない場合、「法務博士」という称号をもらっても、3回チャレンジしても受からなかった「三振博士」といった評価はあっても、その先の就職の展望が開けているわけでもない。

     「どの仕事だって厳しい」と言われても、選択する側がより安定や将来性、「優良」とみられる業種・業界を選ぼうとするのは当然のことで、「魅力」も受け皿側が強要することはできません。トータルに考えて、この「プロセス」は、チャレンジすることによって自らが判断する機会という面、費用対効果という面でも、どう考えても法曹志望者に魅力的な制度とは思えないどころか、そもそも彼らのことを考えているとは思えない制度です。そして、その先にある法曹そのものの「魅力」も、志望者にとって、またかすみつつあるのではないか、ということも伺わせます。

     ただ、いうまでもないことですが、冒頭のつぶやきの最も重たい投げかけは、「どちらが社会に好ましい事象か」という点です。つまり、現実的にこうした形で法曹志望者に付きつけられているものが、結果として、この国の司法の人材確保にどう影響するか、ということです。「魅力」は強要できない以上、それはやりたくてもできないという意味での現実的条件として、費用対効果の妙味として、チャレンジできない「プロセス」の欠陥として、自分の能力を活かせる場を見つけられるその可能性として、この道を選択肢から外す人々が確実にいるということです。

     その現実が、前記旧司法試験を何度でもチャレンジし、「合格できずにその道を諦め」た時代と、どちらがこの社会にとっていいのか、ということです。それでも「プロセス」という価値が、強調されるのかもしれませんが、仮に何らかの影響が明らかになったとすれば、「プロセス」のせいだ、いや「法曹」のせいだ、と魅力の問題をめぐり責任のなすりつけ合いが起こってもおかしくありません。

     ただ、できる見通しが立っていない環境整備という前提の話を抜きにして、今の段階でいえるのは、なにがなんでも「プロセス」を守れ、という話が、この社会にとって好ましいとは、どうしても見えないということだと思います。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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