伝えておくべき「給費制」の意義

     以前にも書いた通り、弁護士・会は、よくよく「通りの悪い」抱えることになる存在です。仮に筋が通っている話でも、発言している当事者である彼らの利害を最優先しているように置き換えられてしまう案件を抱えているという意味です(「『通りが悪い』話を抱える弁護士たち」)。

     大きな論議となっている弁護士の増員に関して、増えることよる「質」の懸念をいう主張は、その典型で、「自分たちが潤うために増やしたくないからそんなことをいっているんだろう」といった見方がなされます。

     実績から考えたら、弁護士がいかに自治を持ち、懲戒制度を働かせても、それが弁護士の非違行為の抑止力になっているかは疑わしいといわざるを得ない以上、数が増えれば、そうした問題のあるケースが発生することを想定するのは当然のことです。

     もちろん、今回の新しい法曹養成が、その増員状態に対応して、その点で、これまでとは違う「質」を確保する教育を提供するという、何か確固たる手ごたえでもあれば、それは話が別ですが、だれもそこまでの見通しは立てられない状況のように思えます。

     そうであるのに、前記主張を弁護士が言うのは、一応ご法度のようです。「増えたら悪くなる、なんてことは口が裂けてもいえない」という趣旨の言葉を弁護士から聞くことがよくありましたが、この「通りの悪い」言い方は、自浄能力とその意欲を疑われ、弁護士自治という本丸に火が付くとみる向きもあったのです。

     日弁連が制度維持を求めている、司法修習生の「給費制」の問題も、実はまさにそういう「通りの悪い話」にはまってしまった案件でした。昨年、給費制廃止反対を主張し、貸与制移行1年延期をとりあえず勝ち取った形になった弁護士側か主張した「おカネ持ちしかなれない」論、さらには、制度廃止によって借金がかさむと「人権活動ができない」といった言い方に対しては、既に大マスコミの中には完全に前記したような利己的主張との位置付けで、社説で「脅しともいえる言葉」などと表現しているものもあります(朝日新聞2010年11月14日「社説」、「『おカネ持ちしか論』と『多様な人材確保』」)。

     しかし、こうしたとらえ方のなかで、長年、この国で司法修習生が国費で養成されてきた意味、また、その効果が、なかなか一般に伝わっていないという印象を持ちます。

     給費制の維持を求めて法科大学院生・修了生・司法修習生・若手法律家で作るネットワーク「ビキナーズ・ネット」が7月26日、現在、この問題が話し合われ、貸与制移行への議論の方向が強まった政府の「法曹の養成に関するフォーラム」第3回会議(「給費制『フォーラム』の戦況と戦術」)の議論を憂慮する声明を発表しました。

     この中で、彼らは前記経済的な意味合いとは違うこの制度の意味について訴えています。

     「私たちの国は、昭和22年、終戦の荒廃と貧困のさなかに、復興と人権擁護を希求して、統一修習・給費制を開始しました。裁判官・検察官に加えて弁護士の養成までも、国費で行うこの制度は、弁護士を含めた法曹が国家的に不可欠な人的インフラであることに心を致した叡智です」
     「給費で生活を保障しつつ、修習生に厳格な修習専念義務を課して、徹底的にトレーニングをさせ、どの道に進もうと正義と人権の実現を使命とする法曹としてのマインドを醸成し、高度なスキルを身につける役割を果たしてきました。国民の皆さんの税金で育てられたという重みは法曹の心にずしりとのしかかってきたはずです」
     「まさに、給費制は法曹のスキルとマインドの制度的保障です」

     彼らも触れていますが、給費制廃止は、司法修習を個人が法曹資格を取得するものとみる、受益者負担の考え方が反映しています。しかし、給費制の発想は、法曹という存在の受益者を国民とする前提に立っています。その意味で、貸与制は、その「質的転換」が行われることを意味するというわけです。

     前記エントリーでも書いたように、「フォーラム」第3回会議では、給費制維持を求める日弁連側の経済的負担の側面の主張は、ことごとく他の委員から打ち返され、本来的なこの制度が作られ、維持されてきたことの意義が、正面から取り上げられていない展開になっています。

     もちろん、「ビキナーズ・ネット」のような主張に対しては、あくまで受益者負担の考えや、あるいは果たしてすべて弁護士がその「重みを心にずしりと」受け止めてないるわけではない、といった反論も出るかもしれないと思います。

     しかし、それでもこの「給費制」が、法曹の卵たちが「やっていかれるのなら無用」であったり、さらには、日本の経済状況が豊かであったら、消えなくてもよかったりする制度ではない、それ以上の意味を持ってきたことは、たとえ見方によっては「通りが悪い」話のようでも、大衆に伝えられるべきことだと思います。


    ただいま、「『給費制』廃止」「法曹の養成に関するフォーラム」についてもご意見募集中!
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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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