正しかった専門家たちの「つぶやき」

      2001年6月の司法制度改革審議会の最終意見書が発表された後に、自分が書いたものを読み返していると、こんな記述が出てきます。

     「法曹界のあちこちで、つぶやきとも、ひそひそ話もいうものを聞くことが多くなった」

     つぶやきの中身は、例えばこんなものです。

     「法科大学院構想というが、本当は法曹養成には司法研修所の方がいいと思う」
     「裁判員制度の被告人に選択権を与えないのはいかがなものか」
     「年間合格者3000人なんて、弁護士はやっていけるのか」

     いうまでもなく、遠慮がちにこう語っていたのは、もちろん法曹界のなかで、彼らが、司法審が発表した「改革」路線に対して、反対もしくは慎重という立場を鮮明にしている人たちではないからです。だから、こうした内容を小声で切り出す前には、必ず次のような前置きが付いていました。

     「司法審が方向を打ち出していることなので、あくまで個人的な見解ですが」

     当時のことは、かなり記憶があいまいになってきていることもありますが、確かにこうしたムードがあったことは覚えています。在朝・在野を問わず、こんな本音をまるで陰口のように語る法曹人たちがいました。
     
     なぜ、といえば、それはいうまでもなく、前記司法審なる存在が、「国民」の声を反映した結論を出しているということになっているからととれました。司法審路線の改革の方向に従わないことは、その「国民」の声を軽視することとなり、あるいは「改革」への抵抗勢力、法曹の自己保身のごときレッテルを張られかねない、という認識が少なからず反映していたのです。

     もちろん、こうした流れに抗してまで、反旗を掲げる意味を見出していないからこそ、堂々と反対派としては主張しない方もいれば、つぶやきさえも控え、
    本音は心に押しとどめ、賛成の旗を振ってきたご仁もいらっしゃるとは思います。

     反対派の裁判官・検察官OBの中には、こうした事情をよく分かっている方もいらっしゃいました。

     だけど、このつぶやきに関していえば、当時、そうした言葉を聞くたびに、そこに本来、司法の担い手として持っている「こだわり」を見る思いもしました。

     未知の部分をはらみながら、構想が独り歩きしている法科大学院に対して、法曹養成制度の実績として、これまでの司法研修所の教育は正当に評価されているだろうかという気持ち、試験という「点」からプロセスに変わるという触れ込みの新法曹養成は、その司法研修所教育の改善という発想の延長線上に出てきたものではないところに、いくつもの遮断された思いが、関係者の中にはあったと思います。

     そして、裁判員制度の選択制についていえば、制度活用の維持のために、被告人の権利を犠牲にするというところに、法曹として当然の疑義を持っているようにとれました。

     制度維持という同じ論理で、新司法試験の予備試験を厳格化し、これまで公平・平等の受験機会を保障してきた司法試験の理念を曲げようとしていたことにも、当時、既に何か割り切れない、転倒した論理をそこに見ていた人は少なくなかったと思います。

     しかし、今回の「改革」の主人公は、彼ら法曹三者ではなく、「国民」という建て前でした。結果、「『改革』派にあらずんば、人にあらず」、司法審は錦旗のような存在となり、いくつかの議論が消え、やがてそうした専門家の「こだわり」の声は、つぶやきに変わっていったのです。

     今、思えば、「こだわり」「つぶやき」は正しかった、というべきでしょう。彼らが法曹人として持った疑問は、いずれも彼らが危惧した通り、「改革」の結果にのしかかっている観があります。別の見方をすれば、つぶやきが、やはり当時の論議の不完全燃焼をまさに反映していたものであったことに、気が付かされます。

     つぶやきといえば、当時はツイッターなんてありませんでした。考えてみれば、当時「推進論」のなかに埋もれることになった法曹のあのひそひそ話も、あるいは今ならば、ネット上の「つぶやき」となって、万人の目にとまることになっていたのかもしれません。

     その意味でも、やはりネット上に現れる本音や「内部告発」に、注目していかなければならないと感じますが、同時に、「改革」論議をめぐる環境も、この10年で、劇的に変わったということを改めて感じてしまいます。


    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
    http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信開始!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR