40歳代弁護士たちの憂鬱

     日弁連が5月に発表した「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査報告書2010」(「自由と正義」臨時増刊号Vol.62)の中に、気になる統計結果が出ています。

     事業収入について、現在、40歳代の弁護士についいて、特異な傾向が現れているというのです。今回調査の「売上(収入)合計額」と前回2000年調査の「粗収入」と比較すると、この年代が840万円減と、他の年代と比較して顕著な低下傾向を示したというのです(今回3483万円、前回4327万円)。

     前回と前々回1990年の調査と比べても、現在の40歳代に当たる当時30歳代だけが、粗収入で減少していたという事実があるようです。調査結果の分析のなかで日弁連も、「この集団の調査結果は特異な傾向を示している」と評しています。

     このやや謎めいた傾向の原因について、日弁連は「この調査で特定することはできない」と前置きしたうえで、一つの推測をしています。

     「法曹人口もまだまだ少ないと評価されていた時代であるため、弁護士人口が原因であるとは思えない。世上よく言われるように、この年代は、ちょうど高校・大学時代がバブル景気時代であった。しかも、この年代の弁護士が業務を始めてからの数年は、バブル経済がはじけた後の経済状況となっており、良くも悪しくも弁護士の業務内容も大きな変化に見舞われた時代であった。このような特殊な経済状況がこの年代に影響を及ぼしている可能性は否定できないであろう」

     ここで言っているのは、要するに、この世代の弁護士スタート時との関係です。バブル経済後の状況下で弁護士として出発した彼らが、10年後、2000年当時の同年代の売上レベルに達していない、ということです。

     これは、どういう現実を物語っているのでしょうか。今一つ、確然としたことは分からないのですが、知り合いの40代後半の弁護士が良く言う、こんな言葉を思い出します。

     「自分たちが、これまでの弁護士のスタイルで、なんとかやってこれた最後の世代だと思う」

     弁護士という仕事の安定的な基盤を彼らが今、作れていないということ、逆に言うと、安定的な基盤確立へのスタ―トが切れなくなった第一世代が彼らなのかもしれない、ということです。そこには、業務の継承をはじめ、さまざまな変化が経済状況との関係で彼らにのしかかった、とも考えられます。以前に書いたような、弁護士の独立モデルも、崩れ始めたととれます。

     もちろん、日弁連の分析が早々に要因から除外している弁護士人口の増員が、その後の彼らに影響してこなかったともいえません。

     そして、これもこの世代の弁護士と話していてときどき感じる、あくまで印象ですが、弁護士としての将来に対して、彼らは楽観的な見通しを立てない第一世代のようにも見えるのです。現在の20代、30代から当然のように聞こえてくる弁護士の未来への不安と悲観的な見通し。それをある意味、はじめて弁護士の口から聞いたのは、この世代かもしれません。

     変化の端境期のなかにいた彼らは、それ以前の弁護士スタイルもまた、よく知っている世代。それだけに、この変化の深刻さもよく見えている世代でもあるように思えます。

     いうまでもなく、今もそうですが、世代で区別するには、弁護士という肩書で仕事をしている人々には、多種多様な人間たちがいます。経済的な状況にも、格差があるこの資格業は、こうしたくくり方をすれば、必ずといっていいほど「俺は違う」という意見が返ってきます。もちろん、それはそうだと思います。

     ただ、弁護士の経済的な安定、あるいは不安定が、本当にこの社会に何をもたらすのか、それを多くの大衆は分からないでいます。「甘やかすな」「これまで恵まれ過ぎていた」という批判的な論調は、大衆に受け入れられやすい響きを伴いながら、一方でこの変化がもたらす負の影響から目をそらさせることにはつながっているように思えます。

     そう考えたとき、この40歳代の「特異な傾向」から読みとれる変化の意味するところは、やはりこれからの弁護士という存在を考えるうえでも、気になります。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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