日弁連「参加主義」の結末と評価

     司法改革をめぐり、日弁連内の会内世論が分裂し、推進派の執行部姿勢に対する批判も高まり出したころ、ある推進派の弁護士が、現状を肯定する意味で、こう語ったということが伝えらたことがあります。

     「一歩前進、二歩後退だよ」

     「現状を肯定する意味」で、この言葉が使われたというのがみそです。当然、「それじゃ、実質一歩後退じゃないか」と、これを知った弁護士の多くが語ったわけで、それをいうなら「一歩後退、二歩前進だろ」と、それを「言い間違い」と受け止めた方もいらっしゃいました。

     真偽のほどは、実は分かりません。だけど、ことによると「言い間違い」ではないのではないか、ともとれました。それは、もちろん、その時点で、この言葉の通り、「改革」について、弁護士の増員にしても、陪審ではない裁判員制度にしても、日弁連の「後退」が明らかだったこともあります。

     しかし、推進派の彼の言としては、それにとどまらず、実は「一歩前進していることで二歩後退しても、実質一歩後退で済んでいる」という意味ではないか、と。つまり、こういう表現で、日弁連の姿勢を評価したのではないか、ととれたのです。

     今回の「改革」に対する日弁連の姿勢を見る時、忘れてはいけないのは、その根底に「参加主義」といえるものがあったことです。つまり、これはそれ以前の司法問題に対するテーマでも、見られたことではありますが、問題のある制度提案の論議に非協力の立場をとらず、議論に積極的に参加し、こちらの主張を展開しようとするものです。

     「改革」についても、まさにそういう姿勢が根本にあったと思います。仮にその制度提案に問題があったとしても、参加することで、自分たちの主張が取り入れられる、という見通しです。「せめぎ合い」の論理という人もいます。

     もちろん、これはある種のリスクを伴います。意見を取り入れられなければ、それは日弁連・弁護士会にとって、あるいはその主張に込められたあるべき司法にとって「後退」であるばかりか、結局は、「改革」の協力者、悪い意味でいえば、共犯者として名前を連ねることになるからです。

     結果は、どうなったかといえば、「後退」は現実のものになりましたが、そうなる、日弁連執行部はじめ推進する側は、「成果」を強調することになります。つまり、「せめぎ合い」の論理で主張が通せるという見通しや、あるいはリスクに対する認識の「甘さ」について責任をとるという立場、「反省」する立場には立たない、ということです。

     これがまさに、冒頭の推進派弁護士の言葉が、「言い間違い」ではないととれてしまうことにつながっています。陪審制度になる可能性がないことを百も承知で、「裁判員制度は陪審制度の一里塚」などというのも、弁護士増員政策によって、予想通り、それを経済的に支える「受け皿」となる有償のニーズがなくても、「まだまだある」と強弁したり、いまだに「二割司法」がいうような大量の「泣寝入り」を強調したり、「多様な人材確保」には矛盾する法科大学院制度をあくまで「本道」としたり――これらは、いずれも、「反省」に立ちたくない、敗北を認めたくない姿勢ととれてしまいます。

     かつて司法改革について行われた大規模なパネルディスカッションで、中坊公平・元日弁連会長が、「この『改革』は、残念ながら市民が下から求めたものではない。ただ、進め方によっては、市民のための『改革』になる」という趣旨の発言をしていたことを書きました(「『改革』への期待感という幻影」)。

     「改革」牽引の中心にいた彼が、まさに、この「改革」の性格と、参加による「せめぎ合い」による「成果」をどう期待していたのかが分かりますが、一方で、彼の果たした役割は、こうした期待感のもとに、弁護士・会を「改革」の「せめぎ合い」論理に駆り出すことにあったともとれるのです。

     皮肉なことに、その「責任」が問われる段階になり、推進派が「成果」を強調しなければならなくなったときには、彼の姿はこの世界にはありません。だけど、彼が牽引した「改革」は、「反省」を伴わないまま、彼が言ったのとは違うレールを、そのままひた走っています。


    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
    http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信開始!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR