「企業内弁護士」という「多様な法曹」の予想図

    これまでも弁護士増員推進派側の期待と現実のギャップが現れている企業内弁護士については取り上げてきましたが(「『企業内弁護士』への期待」「期待された『受け皿』側の本音」)、これを日弁連機関誌「自由と正義」7月号が特集で取り上げています。

     企業内弁護士の座談会と、日本組織内弁護士協会理事長の片岡詳子弁護士の論稿で構成されています。「多様な法曹」という特集のタイトルが示しているように、日弁連機関誌の立場からすれば、弁護士の就職先の選択肢として、その可能性と現状を紹介することが狙いととれますが、参加した弁護士たちも、今後の展望では、企業内弁護士は「今後増える」という見通しながら、その規模やペースについては見通しが立たないということでは、ほぼ一致していました。

     片岡弁護士の論稿に出てくる日本組織内弁護士協会の調査によると、2010年12月末現在、企業内弁護士は512人。規模的には広島弁護士会より大きく、千葉県弁護士会より少し小さいくらい、と紹介されています。

     彼女の論稿のなかで驚いたのは、彼女も強調していますが、その女性比率の高さです。512人の内訳は男性310人に対し、女性202人で、女性比率は39.4%。全弁護士に占める女性の割合16.8%に比べて、かなり高い数値を示しています。片岡弁護士は「やや強引にまとめると」と前置きして、インハウスローヤー(組織内弁護士)の時代は、「日本企業が60期代の若手の女性弁護士を、たくさん沢山雇いだして到来した」とくくっています。

     しかし、この特集で特に印象に残ったのは、座談会のまとめで述べられた総合商社で約30年の勤務歴がある柏木昇・中央大学法科大学院教授の発言です。

     彼の言われことは大きく2点。ひとつは現在の法科大学院と司法研修所の教育が企業内弁護士養成を視野にいれていないことです。研究者教員は「学問的におもしろいこと」ばかり考え、リスクが大きい順に重要とする企業と違う発想であり、実務家教員はほとんど伝統的訴訟弁護士で、訴訟実務が中心だと。

     もう一つは、企業内弁護士の実績で今後の状況が変わるという見方です。企業の9割以上で弁護士採用に消極的といわれるなかで、企業内弁護士が役に立つという体験が社内や他社に広まることが、需要拡大につながると。その意味で、彼はやはり法科大学院での教育には期待しながらも、弁護士資格そのものの必要性にもやや懐疑的で、卒業後はチームワーク力や創造力・気力等企業人としての能力が大切として、こんな社内弁護士の発言を紹介しています。

     「法科大学院を卒業して司法試験に受かったら、司法研修所に行かないですぐ来てほしい。なぜならば、司法研修所の教育は全くむだで、弁護士資格はあってもほとんど役に立たない」

     さて、こうした発言から、何が見えてくるでしょうか。企業ニーズから逆算する形で見ていった時、これまでの法曹養成の未来予想図も、かなり描き直さなければならなくなるようにとれます。もちろん、その中には、司法研修所の無用論、弁護士資格不要論まで描き込まれるのかもしれません。

     別の見方からすれば、そうした予想図自体も、前記した現在の企業内弁護士たちに対する企業側の実績に対する評価にかかっているともいえます。それが、これから法曹界を目指す人たちに、どういうメッセージとして伝わるか、また、その結果、法科大学院と法曹養成がどう変わっていかざるを得なくなるのか、あるいは柏木教授が指摘したような、そうした企業内弁護士、つまりは企業ニーズを視野にいれた養成へと変わっていくのか――そこは注目していかなければなりません。

     そして、弁護士増員問題と絡み、いまにわかに企業内弁護士の増加に、企業側からは「過剰」とまで評されるほどの期待感を示し出している弁護士会の方々が、そうしたこと含めて、どこまでの予想図を描けているのかも気になります。

     いずれにしても、企業内弁護士という存在からみた「多様な法曹」は、いまだ不確実な未来に横たわっています。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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