ある地方法科大学院関係者が描いた展望とニーズ

     およそ「ニーズ」ということを考えるうえで、気をつけなければならいことは、2点あるように思います。一つは、この顧客・利用者の「要望」「要求」がかぶせられるとき、実現性を度外視した無理難題が含まれることです。

     事情を知らない人からみれば、この無理難題にこたえないことも、「ニーズにこたえていない」ということとなり、時に、その姿勢が問題視されたりもします。

     もう一つは、「潜在的ニーズ」といわれるものです。これもいうまでもありませんが、「顕在的ニーズ」と違い、これは分析や調査が命です。本当に潜在的にニーズがあるのか、声として上がらないそれをいろいろな人が読み込むわけですが、そこには立場によっていろいろな解釈、時に解釈者に都合のいい解釈も混じります。

     もちろん、ここでも事情が知らない人の解釈・分析には、当然、的外れなものが混在することになるわけで、場合によっては、どこまで掘っても金も石油も出ないところを掘り進め、というような話にだってなってしまいます。

     弁護士増員をめぐる議論のなかで、まさに問題となるのは、この「ニーズ」を考えるうえで、最も注意しなければならない点ではないか、別の言い方をすれば、この「ニーズ」の落とし穴に、見事にはまっているのが、弁護士の増員というテーマのような気がしてならないのです。

     最近も、つくづくそれを感じさせるものを目にすることになりました。一部弁護士の中でも、話題になっている法テラス福岡のニュースレターの中での、西山芳喜・九州大学大学院法学研究院教授の発言です。

     突っ込みどころ満載の同教授のご発言は、既にネット上でもいろいろな方がちゃんと突っ込んでいらっしゃいますので、ご覧になって頂きたいと思います(「Schulze Blog」「ニガクリタケは偶に生えます~クリタケとそっくりでも噛んで苦いのがニガクリタケです。すぐに吐きだして下さい。」「弁護士 猪野亨のブログ」)。

     西山教授は、「地産地消」を目指して地方の弁護士を作ることを目指した地方の法科大学院がうまくいっていない、試験にはアウトプットが大事で、必要最小限度の知識を入れて必要最少限度の知識を入れて必要最少限度のことを吐き出すというのが試験に合格するためには一番合理的だが、そのために何をどこまでインプットすればいいのかのノウハウを我々はあまり持っていない、大都会の法科大学院の先生たちも持っているわけではないが、大都会の法科大学院に学生は行き、優秀な人間が集まるなか、合格率がアップし、また合格するために学生は都会を目指す、と。

     つまり、結局、受験対策が壁になっていること、合格するために都会に学生が流れること、そのことが地域に弁護士を根付かせようとした地方法科大学院がうまくいっていない原因のようにおっしゃっています。

     彼はさらに、都会で勉強して地方に戻ってきても、なかなかうまくいかない。それは地方法科大学院の学生のように、在学中から地元弁護士と知り合う機会がないからで、地方の学生の場合、知り合いの弁護士のところに「一人前にしてください」というと受け入れてくれる可能性がある、逆にいえば、それがない都会の学生は、その点で不利、というようなお話しです。

     彼はこのあと弁護士を8年かけて一人前にする。3年法科大学院、1~2年司法修習、さらにあと3年でもう一度法科大学院で勉強、法テラスを法科大学院と連携した医師の場合の連携病院のような存在にしてみては――といった持論を展開されています。

     これが、西山教授の描く地域に弁護士を根付かせることを目指した地方の法科大学院の課題であり、展望であります。ただ、以前にも書きましたが、この話の前段は、「プロセス」と言いながら「点」が残っているなかでの法科大学院制度の矛盾、中段は本当に通用するか疑わしい地方校メリット、後段はそれこそ経済的問題を考えれば、およそ志望者にとって現実的ではない法科大学院存続案のように読みとれます。

     ただ、決定的なことは、このあとの下りに出てきます。

     「図書館でも学校でも病院でもどこにでも弁護士がいるんだと、そういうものがあって初めて法の支配が行渡るといいますか、それも紛争解決に限るのではなく予防司法が大切だと思う」

     学校にも、図書館にも、病院にも弁護士がいて、生徒や患者の弁護士がいて、当局に言えないことを弁護士が代わりに言う、そんな存在となると。彼の話で出てくる地域に根ざす弁護士にとっての、肝心の受け皿になるのは、どうも前記「法テラス」と、こうした学校や図書館や病院に弁護士がいる地域社会のように読めます。

     しかし、これは「ニーズ」なのでしょうか。はたまた「潜在的ニーズ」なのでしょうか。どう考えても、なんとかひねり出した、後付けの「ニーズ」、顧客・利用者の必要性から逆算されたものでない「ニーズ」に思えてなりません。

     この「改革」の論議で、このパターンをよくお見かけすることが、「改革」の何を意味しているのかは、もはやいうまでもないことのように思えます。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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