「不安」に対する弁護士の役割

     昨年来、弁護士会内の一部で「トリベン」というものが話題になりました。大阪弁護士会の前執行部が発表した、いわゆる「ゆるキャラ」で、「あなたの不安をトリのぞく弁護士」(もしくは「トリあえず弁護士に」)だそうで。賛否両論あるなかで、理事者がそれになりの思い入れがあって発表されたとか、残念ながら会員間では不評だとか、そんな話が伝えられています。

     制作者側の意図がややからまわりする感じは、まさに正統派の「ゆるキャラ」というべきかもしれません。これで、理事者たちが、この着ぐるみを着て、街頭に立てば完璧ですが、どうもそこまでではないようです。

     さて、どうも「トリベン」の話題は、そのキャラの方にいっているようですが、ここで注目したのは、そのコンセプトの方です。なぜなら、弁護士仕事、社会での存在をアピールするのに、「不安を取り除く」というイメージを前面に出すものをあまり見かけなかったような気がするからです。と、同時に、弁護士の仕事が「不安を取り除く」という受け止め方もされている感じがあまりしません。

     もちろん、トラブルに巻き込まれた市民は、「不安」のなかにあり、その解決は「不安を取り除く」ことですが、イメージとしては、当事者が巻き込まれている紛争自体を解決することが、ストレートに打ち出されているものを多く目にしてきたように思います。

     逆に読みとれば、そこが狙いということかもしれません。「不安」というのは、紛争のもっと手前の状態も含めて、まずは弁護士のところに来てください、弁護士はそんな存在です、と。「トリあえず」の方も同様。ここに「身近な法律家」や、「社会生活上の医師」といったイメージに近い、いわば相談に応じるパートナー的な存在を示しているのか、とも思います。

     もっとも、法律相談で解決してしまうレベルはともかく、相手のある話は、そこから始まり、裁判にでもなれは、依頼者・市民は、結果がでるまで「不安」であり、弁護士がそれを取り除く努力をしてくれているとはいえ、それ自体がこのイメージにかぶせやすいとは、やはり思えません。結果、敗訴した場合、その弁護士は、「トリベン」か否かといった評価は、もちろん当事者側からはしにくいものになります。

     そういう意味では、「不安を取り除く」というイメージが直接かぶせられる弁護士の仕事のレベルは、やや限定されるような印象も持ってしまいます。

     それよりもあえていうならば、順序からいっても、まず、弁護士が取り除かなければいけない不安は、弁護士自身に対するもののように思います。どのように良い弁護士、つまり自分を助けてくれる弁護士にたどりつけるか、たどりついた弁護士が果たして自分を助けてくれるのか、この「不安」です。

     一つには情報公開を含めた環境があります。ただ、それがどういう形で整備されるのか、あるいはできるのかは、簡単な問題ではありません。弁護士を適正に選べる材料と方法が与えられることが必要になりますが、競争による淘汰はその「不安」を解消するとは思えず、むしろそこには、その推進論者が口にしない、自己負担・自己責任の「不安」が横たわっています。

     そして、さらにいうならば、弁護士という存在の質の低下、玉石混交の状態は、依頼者・市民には根本的不安要因だということです。弁護士という資格が一定の品質を保証してくれていないということが、いかに市民にとっての負担なのか、そこはもっと考えられなければなりません。数を増やすことよりも、そこの保証こそが不安を取り除くことにつながるのです。

     それにしても、「トリベン」と聞いたならば、まず、「焼き鳥弁当」が浮かびます。さらには、かつて問題になった「弁抜き」ならぬ「取り弁」(取除く弁護士)だ、「(金)トリ弁」だという話まで。せめて、この言葉が、考案者の意図するものとは違う意味で、流通しないことを祈っています。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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