弁護士と「隣接」の微妙な関係

     弁護士界の人間が使う言葉として、「隣接士業」とか「隣接専門職種」という言い方があります。弁護士という仕事に隣接した専門職、司法書士とか社会保険労務士、不動産鑑定士、行政書士、弁理士などを指すものです。

     弁護士からみて隣接ということですので、他の士業の人は基本的にこの言葉を使いませんし、正直あまりいい気がしない人たちもいます。いってみれば、弁護士中心主義の現れともとれなくないからです。そもそも弁護士から見た使い方なのですから、他の士業が使うのはおかしいに決まっています。

     ただ、弁護士は他の士業の人を前に、割とおかまいなく、この言葉を使います。先日も司法書士の集まりに出席しましたが、講師として呼ばれた弁護士は、この言葉を連発していました。客観的な表現としては、「弁護士以外の法律専門士業の方」ということになりますか。

     それはともかく、この「隣接」、とりわけ最隣接といえるかもしれない司法書士と弁護士との関係が、少々微妙な雰囲気なのです。

     以前にも書きましたが、法曹界で司法改革の「バイブル」的扱いもされている、2001年に出された政府の司法制度改革審議会の最終意見書に、それこそ微妙な表現のくだりがあります。

     「弁護士と隣接法律専門職種との関係については、弁護士人口の大幅な増加と諸般の弁護士改革が現実化する将来において、・・・・・法的サービスの担い手の在り方を改めて検討する必要がある」
     「しかしながら、国民の権利擁護に不十分な現状を直ちに解消する必要性にかんがみ、利用者の視点から、当面の法的需要を充足させるための措置を講じる必要がある」

     今回の改革のおかげで、2003年に司法書士は訴訟の目的となる価額が140万円を超えない請求事件が持ち込まれる簡易裁判所の民事事件の代理ができるようになりました。そのためには司法書士の資格を取得後、日本司法書士会連合会が実施する特別研修(100時間研修)を修了し、法務大臣が実施する認定試験に合格する必要があります。代理権を取得した司法書士は「認定司法書士」などと呼ばれています。

     司法書士などの士業の方がややひっかかる「隣接」という言葉をあえて使って、前記引用した「バイブル」のくだりが何をいっているかというと、要するに、弁護士と司法書士などの「隣接」士業との関係については、現在進められている弁護士の大増員などが実現した時点で見直す。ただし、それまでの当面の措置をとる。司法書士の簡裁代理権も、当面の措置のようにとれます。つまり、来るべき弁護士増員時代に、全面的に仕切り直すぞ、といっているのです。

     司法審はなぜ、ここで「隣接」の恒久的な活用ととられることに、クギを刺すような一文を「バイブル」に入れたのでしょうか。司法審の議論をめぐっては、かねてから、この国の法的なニーズの担い手を「隣接」を含む士業総体としてとらえていないことを問題視する見方がありました。

     法的ニーズの担い手たる弁護士の大幅増員が、「隣接」の存在を度外視した評価の結論だとしたならば、どうなるでしょう。

     ここで恒久的な「隣接」活用を持ち出しては、大前提の弁護士大増員の既定方針をぐらつかせることになる。それでもスルーするわけにいかなかった「隣接」の現実的活用を提案するには、どうしてもこのクギが必要だった――そんな深読みができてしまいます。

     弁護士側は、日弁連の機関誌などで、「バイブル」のこの下りを取り上げ、「隣接」への権限付与はあくまで過渡的なものとして、「隣接」から出ているさらなる権限拡大要求を「改革に逆行」と蹴っ飛ばすとともに、前記したような研修で権限を付与している現状の形にも疑問を投げかけたりしています(日弁連機関誌「自由と正義」1831号)。

     なんだよ、職域争いかよ、と、市民の方は思われるかもしれません。確かに士業間では、その仕事の領域をめぐる問題は議論されてきました。とりわけ、現在、弁護士vs司法書士、司法書士vs行政書士といった戦線が形成されているにはいます。

     ただ、お互いの利益獲得の戦いとばかりみることはできません。弁護士側の主張には、法的対応での市民の安全確保をいう面がありますし、司法書士側の主張には、市民の利便、あるいは市民の士業選択肢の確保をいう面もあります。

     そもそも司法審が描いた弁護士大量増員のシナリオも、弁護士の就職難をはじめ経済的問題や「質」の問題で、だいぶ状況が変わってきました。「仕切り直し」自体も「バイブル」の想定とは、かなり違ってくることも考えられます。

     いずれにしても、市民にとって、どういう形が望ましいのか、そういう視点の議論がきちっと進むのかの監視が必要なのです。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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