弁護士増員とコストの意外な関係

      弁護士が増えることをよしとする方々の意見のなかには、もちろんそのことによるメリットへの期待感が込められています。その期待感とは、要するに弁護士の使い勝手がよくなるということであり、それは「身近になる」ということも含めたアクセスと、金銭的な意味があり、実は社会はより後者に期待感をもっていることは以前書きました。(「弁護士の『使い勝手』」)

     弁護士が増えることによって、競争が起きてよりよいサービスが国民に提供されることになる、質の悪い弁護士は淘汰されて退場することになるという描き方のなかに、弁護士を安く使えるようになることも、一緒に描き込まれています。

     結果、悪いことは一つもなし、それなのに反対する弁護士は、社会のメリットを考えず、自らが楽して儲けられる環境を崩したくないだけだ、という論法になっていきます。

     だが、あえて低額化ということに絞って考えたとして、これも果たして推進派が描くようなきれいな絵が描けるのかという疑問があります。

     「何故米国では弁護士報酬を高くできるか」

     かなり前のことになりますが、あるブログ (「つれづれなるままに~弁護士ぎーちの雑感」) のエントリーにこうしたものがありました。この中で、ブログ氏は何故米国では、クライアントが高額の弁護士報酬を払うのだろうか、という素朴な疑問から、日米間の相違に関して、興味深い米国弁護士の分析を取り上げています。

     それは、こういうものでした。

     「もしも、日本が安く、米国が高い、というのが本当だとすれば、それは、日本の弁護士がみんな質が良いからではないか。日本人弁護士と何十人も会ったが、能力的に疑問を感じる弁護士に会ったことはない」
     「ところがここでは、弁護士なら誰でも優秀で問題なく代理できるとは限らない。弁護士のMalpractice(弁護過誤)も多い。優秀な弁護士を抱える巨大事務所が日本より沢山あるように感じるだろうが、それでもそういう事務所は弁護士のトップ5%に過ぎない。だからクライアントにとっては、優秀な弁護士をみつけるのが意外と難しく(利害相反を考慮すれば同一業界で同じ事務所を使う訳にはいかないし)、見つけられたなら、高い報酬を払ってでも維持すべきと考える」

     ところが、日本では、巨大事務所に依頼しなくても、中小の事務所が弁護士の質という意味で劣るということは相対的に少ない。巨大事務所のような高額な経費がかからない分だけ、中小の事務所は比較的低価格に法的サービスを供給することができる。その均衡上、それなりに大きな事務所も、弁護士報酬が安くなるのではないか――。こんな結論になっています。

     これまで一定の数で質を保ってきた日本の弁護士は、逆に低額化できた環境なのだという見方です。競争による淘汰が、そのプロセスで予定しているような、玉石混交の状態は、「良質」に出会うために、結局、コストがかかる状態である、というわけです。

     「良質」が残るという「淘汰」のプロセスが、どのくらい期間続くのか、そもそも良質化が進むのかも不透明な、その過程は、余計なコストがかかる、と同時に、そうした環境を見込んだ弁護士側の価格設定もあり得ることになります。

     つまりは、質が担保されていない弁護士が社会に放たれている環境は、質確保するために、金銭的にも利用者に負担がかかるということです。手段においても、コストにおいても、依頼者・市民に負担と責任が転嫁されることになるといってもいい状態ということになります。

     そうだとすれば、弁護士の増員による低額化の期待は、絵に描いた餅に終わるということになります。むしろ、この米国弁護士の分析に経てば、そうした環境が利をもたらすのは、巨大事務所ということになります。玉石混交は、高い報酬でも良質を求めるクライアントを生み、巨大事務所がそのニーズの受け皿になるようにとれます。逆に、コストをかけられない大衆にとって、良質との距離は遠い環境となります。

     もっとも日本において、巨大事務所が良質を担保するブランドとして存在するのか、どうかは分かりませんし、その点でも、米国の状況がすべて当てはまるとは言い切れませんが、ただ、競争による淘汰によって、良質化と低額化といった「使い勝手」につながるというシナリオとはかなり違う結果です。

     少なくとも、そういう絵の描き方があることは、きちっと大衆に伝えられておくべきように思います。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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