「改革」が消した法曹養成のプロセス

     弁護士事務所への勤務経験がない若手弁護士がいきなり独立する「即独」の出現が、ここ数年、法曹界内の話題となると同時に課題となっていますが、今回の「改革」を推進してきた側は、この事態をどのくらい想定していたのか、ということを、ふと考えてしまいます。

     この世界にくる多くの新人すべてを、「収容」できるという読みは、あったのでしょうか。というか、そういう読みを立てたのでしょうか。立てたのであれば、どういう読みを立てたのか、そこを振り返らなければ、何の反省材料にはなりませんし、読みを立てていないということであれば、さらに根本的な「改革」の問題性が浮きぼりになるかもしれません。

     ともあれ、この世界の人たちは、本当の意味で「想定外」であったかは別として、「想定外」であったかのように、これに対応しはじめています(「弁護士『独立』の非常事態」)。少なくとも、これを望ましい形として受け入れているわけではなく、なんとかしなければならない、という苦肉の策としての話です。

     その最大の不安点は、いうまでもなく、実務経験がない弁護士が実務に直面する、という現実です。若手弁護士は、誰だって弁護士としての実務経験といえるものがあるわけもないのですが、肝心なことはこれまでは、同じ事務所で先輩から事件への対応を相談して、アドバイスをもらえる環境があったということです。

     弁護士会としてこの部分をカバーする支援チューター制度などもこうした対象に向けられたものです。ただ、問題は、これで現状がうまくいっているのか、あるいは、今後ということを考えたとき、こうした形が継続されることでいいのか、という点です。

     前記したような若手弁護士向けに出版された「事件類型別 弁護士実務ハンドブック (東弁協叢書) 」(ぎょうせい)という実務書について、あるブログ氏が驚いています。

     「こんなことロースクールで当然習得していることが前提ではないか? そして、間違ってこれを分かっていない人が弁護士になったりしないよう、司法試験、二回試験でセレクトしているのではないか? 本書は『実務経験』を問題にしているようだが、実際は「実務経験以前の問題」のように思われる」(「QB被害者対策弁護団withアホヲタ元法学部生の日常」)

     いうまでもありませんが、ブログ氏はこの実務書を批判しているわけでも、あきれているわけでもありません。詳しくはお読み頂きたいと思いますが、ロースクールや司法修習で当然学んでおくべき事項が事細かに解説されている同書の刊行が必要ということが、現実を反映しているということの意味、そこに「思い至って空恐ろしい思い」がしたというのです。

     彼は、側聞した話として興味深いことに触れています。以前は、どんなに問題がある修習生でも、事務所に所属してボス弁に「更生」してもらえることを前提に二回試験を通していた、という実態があったという話です。逆に、「更生」が期待できない状況に、二回試験の厳しさは増しているが、それでも現状、「ロースクールレベル、修習レベルの知識に乏しい弁護士が出てきているとすれば、これは極めて憂慮すべき事態」だというわけです。

     かつての司法修習が、本当にボス弁「更生」を期待した前記のような対応をしていたのかは分かりません。ただ、以前にも書きましたが、新人が事務所入所後、ボス弁に教え込まれる、いわば徒弟制度は、この世界でそれなりに確固たるものとして確立し、ひとつの実績として存在してきた歴史がありました。

     時代が変わり、ボス弁について人間修業までする風な、「師匠」と「弟子」の関係は、薄まって、単なるトレーナー、上司にはなってきてはいましたが、それでもOJTの確保という意味で重要な存在であったと思います。つまり、何が言いたいかといえば、司法修習が二回試験を手加減して、これに期待していたという事実かあったかどうかはともかく、実は、この「修業」もりっぱに法曹養成の「プロセス」だったのではないか、ということです。

     法曹の数を増やすという過程で、「点」である司法試験での一発採用を改め、法科大学院を含む「プロセス」の教育に改めるという「改革」が、皮肉にも、法曹養成の一部として確立していた、一つの「プロセス」を消し去っているのではないか、ということです。

     増員ありき、の議論のなかで、あるいは、これも「想定外」という結論にされるのかもしれません。ただ、増員を一端、脇に置いて、単純に、法曹になるための「質」を確保する教育プロセスから逆算した「適正規模」から考えれば、この「プロセス」がもっと重視されていたはずのように思えます。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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