「合格3000人」に突き進ませたもの

    2001年5月22日。この日、その会議は、2010年に新司法試験の合格者を年間3000人にまで増加させるという案をめぐり対立しました。

     「3000人の目標達成時期については、必ずしも意見の一致をみていない。ある程度、幅を持たせておく必要があるのではないか」と、ある委員。

     いや、「既に『頃』が入っているから幅がある」と別の委員。「『2010年以降できるだけ早い時期に』というような方がいいのでは」「それではやらなくていいことになる」。

     そんな達成時期をめぐる細かな応酬を見ていた、その会議を仕切るナンバー2がいたたまれないように、こう言ってしまいます。

     「どうも議論が先走りしているという傾向が否めないように思う。ここはちょっと地に足をつけた考え方を入れておいた方が良いのではないか。3倍にするのだ。実際にできるだろうか」

     すると、黙って議論を聞いていた弁護士出身の「彼」が、満を持したように口を開きました。

     「司法制度改革を大きく国民にアピールしていくというところにおける3000人問題の意味を考えると、その時期をある程度特定していくということが必要である。おっしゃるように、地に付いていないというきらいがないわけではないが、同時に今のところわれわれが唯一の牽引車。牽引車としての役割を果たしていくという姿勢が必要だ」

     もうお分かりの方もいらっしゃるかと思いますが、この会議とは、司法制度改革審議会の第60回会合。そして、弁護士出身の「彼」とは、弁護士会での「改革」を主導し、「ミスター司法改革」の異名までとった中坊公平・元日弁連会長でした。

     この会議の3週間後、この審議会は、その後、「改革」のバイブルとなる最終意見書を発表しますが、そこにはご承知の通り、「平成22(2010)年ころには新司法試験の合格者数の年間3000人達成を目指すべき」の文字が盛り込まれました。

     このことと前記やりとりを改めて見ると、そこからは何が見えてくるでしょうか。

     一つは2010年ころ合格3000人達成という、今、大きな議論を提供することになっている、この決定の根拠が、一体、なんだったのか、という疑問です。委員のなかにも達成の無謀さに首をかしげる意見もあったこの方針を決定づけたのは、いみじくも中坊氏の発言に示されているように、実は「改革」の目標を目に見える形でアピールしたかった、いわば、推進運動の戦略的意味があったのではないか、と思えます。少なくとも、この数を2010年に達成させる構想は、ニーズや「受け皿」から逆算した実現可能な年限だったのかを疑わせるものです。

     そして、もう一つは、中坊氏が言った「牽引車」という言葉の意味です。自らを「唯一の牽引車」と言った彼らがまとめた前記最終報告書は、文字通り、この「改革」を牽引するものとなりましたが、この彼の思いはまた、彼の出身母体である弁護士・会に向けられたのではないか、と思えます。弁護士会が一丸となり、増員を含めた「改革」に自ら打って出て、それをリードする、というのが、彼が思い描いた弁護士会の姿だったのではないでしょうか。

     現に、弁護士会の多くは、彼とともに、その飛び込んでいく形になりました。増員の弊害がいわれ、日弁連執行部も増員のペースダウンを言っている今、実は、それを「牽引」する立場を選択したことの判断の根拠とそれが正しい判断であったのか、違うとすれば、何がそこに駆り立てたのかは、改めて検証されるべきです。

     当然の抵抗は予測していただろう中坊氏も、結局は弁護士は一丸とはなれず、ここまでの長い会内対立を生むとは、想像していなかったかもしれません。彼自身の誤算もあったとは思います。

     結局、あの日、ナンバー2が懸念した通り、だったのではないでしょうか。運動の戦略ではなく、増員の実現性、そのニーズからちゃんと成り立つ規模と、そのための時間の検討がちゃんとなされていなければならなかったということです。第二次司法改革への議論が言われ出している今、今回は「地に足がついた」議論ができるかどうかが問われています。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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