弁護士よる「二次被害」という視点

    弁護士が加入する保険として、「弁護士賠償責任保険」というのがあります。弁護士の過失があり、依頼者に経済的損害を与えた場合の賠償責任をカバーするものです。

     弁護士側には、それなりの負担(例・1事故3億円、年間9億円、賠償請求期間10年で弁護士1名あたり年間保険料43,570円)なのですが、弁護士会の法律相談センターの登録には保険加入が条件となっていることもあり、一応、加入は一般的になっているようです。

     対象となる弁護士の過失による損害の典型例は、期限の徒過です。上告理由書の提出期限や控訴期限を過ぎての敗訴とか、破産債権の届出期限を過ぎて、債権回収ができなくなった場合です。「時効の抗弁が可能であるのに見落とした」「類似事例に関して敗訴の判例があるにもかかわらず、勝訴すると軽信し、訴訟を遂行して敗訴した」「借差押をせず、債権回収の機会を失った」といったケースも考えられるとされますが、弁護士の裁量に含まれ、過誤とされるのは難しいともされ、弁護士に聞くと、「意外とハードルは高い」という印象のようです。

     それでも、弁護士もミスということに関しては、他の保険と同じく、とにかく少しでも「安心」したい、という心理は働いています。また、依頼者・市民に対しては、依頼時に、弁護士の加入を一応確認した方がいい、といったアドバイスもネット上に見られます。実際は、ミスの場合を想定して、あらかじめ弁護士にこの質問をする、ということは、現実的には一市民としてなかなかやれることではないかもしれませんが。

     ところで、保険ですから、あくまで過失が対象です。故意にやったこと、損害を予見していながら行ったこと、もちろん犯罪行為は免責です。その意味では、今、懸念されているような弁護士の増員に伴う不祥事の増加には、当然、この保険は無力です。いわれている「質の低下」のうち、ミスを防げなかった能力については、一部カバーしているとはいえても、それ以上は対象外ということになります。

     さて、日弁連から送られてきた11月11日に横浜で開催予定の弁護士業務改革シンポジウムの案内を見て、そこに書かれた当日の11の分科会のテーマ設定に首をかしげている弁護士たちがいます(「弁護士 猪野亨のブログ」「福岡若手弁護士のblog」)。要は現状からすれば、このテーマ設定では、何の解決にもならない、という話です。

     そのなかで、「福岡若手弁護士のブログ」氏は、やるならばこんなテーマでやってほしいという分科会のテーマとして、こんなものを挙げていました。

     「弁護士非行による二次被害を軽減するために~弁護士賠償責任保険で補填されない被害者への法的援助・賠償基金の創設などによる今後の救済のあり方」

     これは、「今後もまた増加するはずの弁護士横領に対し、弁護士会が遺憾を示すだけの過去のやり方との決別宣言」ともしています。社会的に問題となる弁護士不祥事に対して、現行の懲戒制度の抑止力を含めて、弁護士会の対応がどこまで効果があるのかについては、以前から疑問視する見方があります。「遺憾」を示すことと、ある意味、同様に、それは自治権を持つ団体として、あくまで起きてしまったことへの「示し」ともとれなくありません。

     これまでの実績を基準に考えれば、弁護士の増員によって、弁護士非行件数が増えることは当然、考えられることです。ここは「あってはならない」といった精神論ではなく、現実問題として想定しなければなりません。それは、前記のように、依頼者・市民からすれば、間違いなく弁護士による「二次被害」なのですが、そうした描き方そのものも、前記精神論のなかでは、前提としていないような感があります。

     逆に、そこを直視した場合、前記ブログ氏が掲げたテーマのように、弁護士賠償責任保険がカバーしない、その部分を、弁護士会の責任として検討する姿勢があってもいうに思います。それがない弁護士増員の推進という姿勢は、「弁護士二次被害は自己責任」という免責の主張でもしない以上、現実から目を背けた姿勢、あるいは責任ということから腰が引けた姿勢に見られてもしようがありません。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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