「合格できない」制度の予想された結果

    ある報道で、平成21年度に法科大学院に入学した弁護士志望の37歳の男性のこんな声が紹介されていました。

     「結局、合格するには試験に受かるための暗記中心の勉強がすべて。交渉能力など実務的な経験も身につけたいが、まずは受からないと…」(6月22日、「産経新聞」配信)

     「点からプロセス」といっても、「点」が残っている現実からすれば、これが多くの受験者の本音であることは、実は、だれもが分かっていることだと思います。いくらこれまでの「暗記中心」をやめ、「幅広い教養や柔軟な思考力を身につけた法律家の養成を目指す」といっても、現実がそうなっていない、あるいはそうならないことを含めて、関係者を含めて想像できたのではないか、と思えるのです。

     いうまでもなく、志望者は、法曹になるため、つまり、そのために司法試験に受かるために、法科大学院に入学しています。試験に通らなければ、元も子もないと考えれば、前記志望者のコメントのように、受かる方に頭がいくのは当たり前で、掲げられているような法律家の「質」にかかわるような勉強を二の次にせざるを得なくなるのは、ある意味、当然です。

     つまり、これは端的にいって、そうした本来の法科大学院が掲げている教育が当然に合格につながる、つまり、試験対策ではなく、前記志望者も漏らしているような勉強をしていれば、合格する、もしくは資格が取れるというシステムではない、ということを意味します。

     問題は、どうすればうまくいくのか、というか、現実的にはじめから設計者がどのように想定していたのかが、よく分からないということです。「幅広い教養や柔軟な思考力」など、今の一発試験組の現役法律家が得られていないと位置付けざるを得ない「質」を仮に法科大学院が担保したとして、それをどうやって測るのか、そこがはじめからよく見えません。実務にも精通した教員がついて、教育のプロセスに立ち会い、なるほど彼はそうしたレベルに達したと、「効果」認定でもしない限り、「点」の試験には変わりないじゃないか、ということです。

     そして、「点」の試験に変わりない、つまり、そこに限界があるならば、志望者からすれば、法科大学院に予備校的教育を期待するのも、あるいは一発試験時代同様、ほかの予備校に依存したくなるのも、当然の帰結です。これが、想定できなかったということは、ほとんどあり得ないと思えるのです。

     つまり、「質」と「成果」の関係が不透明ということです。合格率は法科大学院の評価と志望者の期待という「成果」につながりますが、本来の養成の目的が、そこにどう反映しているか、どう測られた結果かなのかは分からない、ということです。

     法科大学院の人気は急降下中です。受験者は平成21年度25,857人、22年度21,319人で、23年度20,509人、入学者は21年度4,844人、22年度4,122人で、23年度は3,620人と、初めて4,000人を割り込みました。合格率の低迷が背景にあるというのは、大方の見方で、新司法試験スタート時の合格率48.3%が、どんどん下がり、昨年には25.4%にまで落ち込んでいます。

     一方で、既に書きましたように5月に始まった法科大学院を経由しないバイパス「予備試験」を、6,477人が受験しています。法科大学院を本道とする描き方からは、その「形骸化」を恐れ、依然として、バイパス冷遇策の必要性をいう声が聞こえてきます。

     しかし、事態ははっきりと一つの結論が出たことを示しています。つまり、志望者からすれば、法曹になれない法科大学院はもはや妙味なし、費用対効果としても選択の余地がなくなりつつある、ということです。

     前記「産経」の記事は、立命館大学法務研究科(法科大学院)教授の松宮孝明研究科長の、こんなコメントで締めくくっています。

    「予備試験の合格者が増えれば、旧来型の暗記重視の試験対策に回帰してしまう。経済的な事情が予備試験実施の理由ならば、法科大学院に通う際の支援制度の拡充で対策をとるべきだ」

    おそらくこの制度を維持しようとする側は、基本的にこうしたスタンスだと思います。だが、これが「点」の裁定が残るこの制度の根本的な問題解決につながると本気で思っているのかは、少々疑いたくなります。とりわけ、とにかく「合格者を増やせ」「減らせなどという弁護士たちはけしからん」という法科大学院関係者の言い分からすると、もはやこの設計のなかで自信が持てる有効策が思いつかないのではないか、と思ってしまうときもあります。

     もちろん、志望者の期待にこたえることが制度の目的ではない、という人もなかにはいるかもしれません。しかし、これまた制度を成り立たせるのが、志望者であることを大学関係者は知っています。これを左右するのは、どこまでいっても費用対効果です。人材の多様性を期待するのならば、なおさらのことです。

    「質」を向上させるということが、仮に現実化しても、費用対効果の問題は、ずっと引きずることになる、この制度をどうするのか、あるいは、どうにもならない結果が、とりあえず資格者を社会に放つという方向で決着するのではないか、いわば、何を守るために何を犠牲にしようとするのかが、この制度をめぐる今後の議論の要チェックポイントのように思います。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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