「弁護士」という肩書威力の利用

     何らかの争いに発展しそうな当事者間で、相手側が「弁護士と相談している」と言ったとすれば、多くの市民は、どう感じるでしょうか。この手の経験を積んでいる方はともかく、訴訟などに縁のなかった大衆からすれば、それだけで相当の警戒感と不安感を持つはずです。

     「相当、面倒くさい主張を掲げてくるかもしれない」「相手は訴えてくるのか」「裁判沙汰になるのなら、こちらも弁護士を付けなければならないか」などなど。

     これは、自分の置かれている状況が、ある意味、別の段階に入ったような感覚かもしれません。それは、逆に相手側からすれば、そう自覚させる効果があるということです。あるいは、人によっては、「内容証明」とともに、これを「脅し」効果としてつかっている現実もあります。

     こんな話をしていたある市民は、そんなことをいえば、相手側から「弁護士の知り合いが沢山いる」ということを聞いただけでも、プレッシャーを感じる、と言っていました。そんなものかもしれません。

     弁護士は、やはり特別な存在であるということになります。この特別とは、どういうことでしょうか。弁護士の訓練された法的能力でしょうか。正義でしょうか。資格でしょうか。

     実は、市民の受け止め方をみれば、特別視されているのは、「弁護士」そのものというよりも、「弁護士の登場」というべきなのかもしれません。弁護士という人間が介入してくる状況が、特別だということです。だとすれば、必ずしもそのときの介入は「正義」の介入という受け止め方ではないでしょう。訓練された法的能力をもった資格者がかかわってくる、ということです。

     あえて「脅し」としましたが、この状況が、結果として、悪い方に展開するとは限りません。交渉に応じない人間がこれによってテーブルにつくこともあれば、相手も弁護士がつくことで、公正な解決への期待を高める人もいるとは思います。ただ、すべてをそう見ることはできません。

     つまり、弁護士の登場はすべてプラスなのか、という話です。

     「弁護士のニーズがある」といわれている企業との関係で、これに武本夕香子弁護士がブログで疑問を投げかけています(「弁護士が多くなれば世の中は良くなる?」)

     企業の弁護士ニーズの中身として、増員の根拠にもつながっている、コンプライアンスの向上、つまり弁護士が参入することによって、企業倫理を含めた法令遵守という面が強化されるようにいわれていることについて、武本弁護士から次のように真っ向から反論しています。

     「一般の人と比較して、弁護士の方が倫理観において劣っていると感じることも多いです。その理由は、おそらく弁護士が常に『法律に反するか否か』と言う最低の倫理たる法律の世界で日常暮らしているせいではないかと思っています。一般社会では、ここまで卑劣なことをしていれば社会から駆逐されるべきといった人物が、弁護士会では許されるどころか、むしろ役員等になって平会員よりも大きな顔で、より大きな声で発言をしていることが散見されます」

     つまり、弁護士の資格をもった人間の参入が、コンプライアンス向上につながるという、論理的必然はない、と。企業内でそれに尽力している弁護士を否定するつもりはないが、弁護士資格は関係ないと。要するに、この点についていえば、弁護士という資格者は特別な存在でなく、「弁護士が入らなければ」ダメのようにいうのは、一般の企業人を見下しているというわけです。

     これは、前記した市民間の紛争での「脅し」とは違いますが、「弁護士参入」による「公正さ」のアピールだとすれば、これも共通した「弁護士」という肩書威力の利用ということになります。

     武本弁護士の指摘に立てば、まるで「採用枠」となっているような第三者的な倫理委員会とか検証委員会に入る法曹関係者にしても、どこまでが肩書威力がアピールしてくれる、単に「公正さ」へのお墨付きのためなのか、やはり疑いの目を向けてもいいことになります。もちろん、採用する側は、その法曹個人の識見・能力を強調するとは思いますが。

     さて、「改革」が進める弁護士増員は、基本的にこの「弁護士の登場」を社会生活のあらゆる局面に広げ、増やせという方向です。それが「公正」な社会になるという描き方ですが、市民からすれば、前記「脅し」も「肩書」威力も、格段に遭遇することになる社会になるということです。それがいいのか、悪いのか、それを望むか、望まないか以前に、そのことを含めて、弁護士の増員の結果が、大衆に伝えられているかが気になります。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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